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市町村合併の光と影(現状版)

自治労島根県本部地方自治研究会2006・2007年度研究課題

地方自治研究会事務局長(特別執行委員) こむろ寿明


●地方自治研究会設立の経過と任務

 自治労島根県本部は、結成以来「地方自治確立」を最大の運動目標に掲げ、あるべき地方自治(県・市町村)行政について、調査・研究、政策提言活動を進めてきました。
 その中核を担う政策シンクタンクとして、県内労働団体、島根大学関係者等の賛同を得て、(社)島根地方自治研究センターを設立。先駆的な高齢者福祉施策の提言など、長年にわたり精力的な活動を進めてきましたが、諸般の事情から2005年(平成17年)末、解散のやむなきに至りました。
 しかしながら、「分権改革」が本番を向かえた今、地方自治研究は最も重要な運動テーマであり、2006年(平成18年)4月、新たに自治労島根県本部内に「地方自治研究会」を設置し、政策研究活動を再スタートさせたところです。
 島根県は、市町村合併が全国に先駆けて進み、大きな市と中小の市町村が併存する「まだら模様の自治」となっています。加えて、小泉・安倍政権で進められた「三位一体の改革」が、地方への財政負担転嫁に変質しつつあるなか、合併後に残された課題も未だ大きいと言わざるを得ません。
 こうした認識から、2006・2007年(平成18・19年)度の政策研究テーマに「島根における市町村合併の光と影(現状版)」を設定し、県内の自治体行政に関わるキー・パーソンを対象としたインタビューを逐次実施。現状や問題点等を把握するとともに、広く関係者の意見を集約し、今後のあるべき自治体像を探ることとしました。
 以下、過去1年半の取り組みを振り返り、島根の自治行政の現状と課題を概括的に明らかにします。


●財政論に押された合併

 政府が強力に推し進めた平成の市町村合併では、「地方分権」の受け皿として最も重要となる基礎的自治体(市町村)の体制整備が目標に掲げられました。
 しかし、明治・昭和の合併もそうであったように、国・地方を通ずる「財政危機」という政治的背景に押されての合併であったことは否定できません。
 今回の合併では、「市町村の数を1,000程度に集約する」との政府の目標が掲げられ、「市町村の合併の特例に関する法律(合併特例法)」に基づき、合併市町村に起債枠を拡充し財政支援する合併特例債などの「アメ」が与えられるとともに、地方交付税の配分基準を小規模自治体に不利にするなどの「ムチ」が使いわけられました。
 結果、限られた期間の中で半ば強制的に合併が進められ、1999年(平成11年)3月時点で3,232あった市町村は、直近の2006年(平成18年)10月1日時点で1,817自治体と激変しました。
 島根県では、かっての59市町村(8市41町10村)が21市町村(8市12町1村)に再編され、能義郡、大原郡、邇摩郡、那賀郡、美濃郡の名は過去のものとなりました。市町村数の縮減で見た島根県の合併は、山口・広島県と並ぶ、全国でも最も進んだものとなっています。
 全国的には、西日本での合併が大きく進展した一方、東日本での合併は現時点でもなお停滞しており、国レベルでは、さらなる合併に向けての方策が検討されています。
また、2004年(平成16年)度から3年間の地方財政改革・第1期(いわゆる三位一体の改革)後、つまり、2007年(平成19年)度以降の地方財政改革・第2期をどうするのかの議論がかまびすしくなされつつあります。
 合併という「自治体改革」の渦が一段落した今、地方は、新たな財政改革と道州制議論というさらなる「改革」の渦に巻き込まれようとしており、知事会を始めとする地方六団体が、真の分権改革ビジョンを提起し、国にきっちり物申し制度改革を迫れるかどうか、この1〜2年が正念場となっています。


●島根県の状況

 島根県における合併議論は、当初冷ややかな空気であり、首長の大半も懐疑的な姿勢でした。県庁内でも、市町村の広域化は必要との認識はあったものの、隠岐、雲南などの地域で広域連合の活用を進めてきた経過もあり、決して積極推進ではありませんでした。
 しかし、1999年(平成11)年8月、自治省が「市町村の合併の推進についての指針」を作成し、都道府県に対し、合併パターン等を内容として「市町村の合併の推進についての要綱」策定を要請。また、市町村の合併の特例に関する法律(合併特例法)を改正し、合併の支援策に期限を付すなど、硬軟織り交ぜた合併の促進策を提起したことで、風向きは大きく変わります。
 国の指導を受けた島根県の澄田知事は、「広域行政検討委員会(委員長・若槻俊二山陰経済経営研究所・副所長)」を設置し合併の検討を委嘱。検討委員会は2000年(平成12)年12月、県内7行政圏域ごとに具体的な合併パターンを提示し、「14自治体への再編が適当」との報告を行いました。
 これを受けた県は、合併促進の立場に転換。合併する一市町村あたり2.5億円を交付する制度を県単独で創設、合併市町村の道路等の整備を優先するなどの強力な合併支援策を打ち出し、一気に機運が盛り上がりました。
 この後、2001年(平成13年)11月には、県内全ての地域に任意もしくは法定の合併協議会が設立され、出雲・簸川(斐川町)、邑北(川本町)などいくつかの協議破綻はあったものも、最終的に21自治体への再編が行われることになりました。
 県内の合併状況は下記のとおりですが、今後の議論に資するため、ここで、県の作成した「合併支援プラン」から、合併の必要性や合併に取り組む県のスタンスを改めて確認しておきます。


合併の必要性
 「地方分権型社会を確立すべき21世紀において、市町村は、地域の総合的な行政主体として、地方分権の理念である自己決定・自己責任の原則の下、高度化・多様化また広域化する地域の諸課題に主体的・積極的に取り組むことが求められており、住民の福祉の実現における市町村の責任は、ますます重いものとなっている」
 「こうした時代において、住民に最も身近な基礎的自治体である市町村が、今後とも続くことが見込まれる厳しい財政状況の下で、その行財政基盤を強化し住民に対する行政サービスを将来にわたって安定的に提供する上で、市町村合併は、有効な手法である」


島根県のスタンス
 「県としては、これまで、市町村や住民の自主的な取組を尊重しつつ積極的に助言や情報提供を行うことにより、市町村合併についての検討や議論の活性化を図るとともに、合併を推進しようとする市町村に対しては、合併の検討に要する経費の助成や道路の重点整備などの支援を行ってきたところである」
 「合併特例法の期限まで3年を切り、関係市町村による合併協議会の設置が進み、合併についての検討が本格化しつつある中で、県として新しいまちづくりに向けた取組を地域の実情に配慮しつつ積極的に支援するため、新たな支援策を制度化するとともに、これまでの支援策も含めて体系的に整理し「島根県市町村合併支援プラン」を策定する」


島根の新しい市町村の姿

【合併した市町】
☆2004年10月 1日
 01 安来市  安来市・広瀬町・伯太町
 02 江津市  江津市・桜江町
 03 美郷町  邑智町・大和村
 04 邑南町  羽須美村・瑞穂町・石見町
 05 隠岐の島町  西郷町・布施村・五箇村・都万村

☆2004年11月 1日
 06 雲南市  大東町・加茂町・木次町・三刀屋町・吉田村・掛合町
 07 益田市  益田市・美都町・匹見町

☆2005年 1月 1日
 08 飯南町  頓原町・赤来町

☆2005年 3月22日
 09 出雲市  出雲市・平田市・佐田町・多伎町・湖陵町・大社町

☆2005年 3月31日
 10 松江市  松江市・鹿島町・島根町・美保関町・八雲村・玉湯町・宍道町・八束町
 11 奥出雲町  仁多町・横田町

☆2005年 9月25日
 12 津和野町  津和野町・日原町

☆2005年10月 1日
 13 浜田市   浜田市・金城町・旭町・弥栄村・三隅町
 14 大田市  大田市・温泉津町・仁摩町
 15 吉賀町  柿木村・六日市町

【単独を選択した市町村】
 16 東出雲町
 17 斐川町
 18 川本町
 19 西ノ島町
 20 海士町
 21 知夫村


●首長インタビューから見えてきたもの

 今回、合併自治体から出雲市、雲南市、浜田市を、単独を選択した町村から東出雲町、海士町を選択し、6〜8月にかけインタビューを試みました。
 インタビューに際しては、合併の是非論ではなく、合併(あるいは単独町村制)を選択したことが「結果としてどうであったのか」「何がよくて、何に困っているのか」「これからどうするのか」という前向きな議論を期待したところです。
 各首長のインタビューを後段に資料として掲げ、ここで、特徴的な声を拾ってみます。
※各首長インタビュー詳細はこちらです!
 ・雲南市長  ・浜田市長  ・海士町長

・大勢が消極的選択であった・・・

 まず、合併(単独)の選択に至る経過で苦労した点では、合併首長からは、「合併の必要性が充分住民に理解されていなかった(雲南市長)」「町村4対市1の力関係で苦労した(浜田市長)」「やむを得ないとやろうという温度差があった(出雲市長)」と、必要性や合併に臨む温度差、地域感情を克服する努力が必要であったことが伺えます。
 また、議会の選挙制度が大きな課題としてクローズアップされており、選挙区や定数の特例を選択した市町においては、次回の選挙が真の一体感を持った地域づくりの出発点となるとの印象を受けました。
 単独を選択した首長では、「単独の選択は誤りではなかった。3つの島は特色ある完結型の島で、この道しかない(海士町長)」との声が聞かれました。
 出雲市長以外は、総じて、「合併はやむを得ない」「単独もやむを得ない」選択であったという、どちらかというと消極的選択であったという印象が否めませんでした。合併の本来の目的である「市町村は、地域の総合的な行政主体として、地方分権の理念である自己決定・自己責任の原則の下、高度化・多様化また広域化する地域の諸課題に主体的・積極的に取り組む(島根県市町村合併推進要綱)」との方向は、まさにこれからという状況と受け取りました。


・待ったなしの地域づくりが求められている

 次に、合併(単独)を選択してよかった点では、合併首長からは、「6町村の地域資源が一体的に生かせる。あれか、これかの選択をせざるを得ない(雲南市長)」「小さなまち単位ではできなかったことができる道が開けた(出雲市長)」との声が上がっています。
 行政資源の効率的配分や集中に期待が寄せられており、財政が切迫するときだけに、行財政の改革の側面として前向きに評価できる点だと思います。
 一方、単独を選択した首長では、「合併で意識とか一体感の情勢に時間をかけるよりも、今そこにある産業興しにかける方がベター(海士町長)」と、国・地方を通じる厳しい財政事情の中、待ったなしの地域づくりにかける決意が伝わってきました。
 島根県は、行政依存型の経済構造からの脱却が強く迫られています。この点において、合併の有無に関わらず、島根県の市町村はいずれも自立に向けた地域づくりが待ったなしで求められています。当然ながら、合併で全てが片付くというものではなく、まさにこれからが問われていると言えます


・深まってきつつあるか、住民との協働

 住民との「協働」という面では、合併首長からは、「行政に任せっぱなしではなく、違うたち人が力を合わせ新しいものをつくる意識が大切(雲南市長)」「町村の地域住民が主体的に動いている。地域担当制で職員に地域の仕事をしてもらう(浜田市長)」「NPO」などが活発に動いており、施設運営などは自主的に手弁当でやってもらっている(出雲市長)」などの声が上がっています。
 特に雲南市では、公民館単位に「地域自主組織」を各地域に再整備していくとの方針で、積極的な予算付けもなされており参考になりました。
 また、浜田市では、全国にも特例的な自治区制度が今後機能することで、「均衡ある発展」をめざしたいとの決意も聞かれ、協働を進めていく上でも今後が注目されるところです。
 単独を選択した首長からも、「高齢者が自分の力を利用してという声が上がり、子育てでは若い人のまちづくりの芽も生まれている(東出雲町長)」「自分たちの島は自分たちで守るという住民の一体感ができ、いろんな面で協力すると言ってもらっている(海士町長)」と、この問題を契機に、住民との距離感が縮まってきたのかという印象を受けます。
 特に、海士町では、職員組合からの自主的申し入れで賃金カットをした経過にも言及があり、その姿勢で、「民間の見る目が変わった」「役場ががんばるのだから、民間もがんばる」との声が寄せられているとのことでした。
 今日の分権改革は、広域の行政とともに狭域の行政、住民との協働が強く求められており、このシステム作りが徐々に進展しつつあり、首長レベルでは意識されつつあるものの、真に住民の意思が活き、自立する行政展開、まちづくりには、さらに時間がかかることも間違いなさそうです。


・改めて問われる県の役割

 島根県に望むことでは、合併首長からは、「どんどん市町村に分権し、できることは現場市町村でやるべき。県職員は余ってくるので市町村に帰って(雲南市長)」「県と市は対等であり、県民文化祭などの事業の重複は避けるべき。県の事務所は市役所に来て一緒に仕事を(出雲市長)」と、レベルアップした市主体に権限移譲などを思い切って進めるべきとの声でした。
 他方で、「国保とか介護保険とか消防とかは分権の逆玉で市町村から引き上げて欲しい(雲南市長)」「介護保険や高齢者医療は件が全面的にやってもいい(浜田市長)」と、より広域行政に特化した島根県の役割を求める声も出された他、県の出先機関の統合の動きについて、「松江や浜田以外はどうなるのか(浜田市長)」の懸念も聞かれました。
 一方、単独を選択した首長からは、「県から権限移譲してもらうものはあまりない。住民と接している町村の現場に出かけて仕事を(海士町長)」との、小規模町村を支える県の役割発揮を求める声が上がっています。
 県は今、財政難で縮む組織改革に躍起ですが、真に分権改革にふさわしい広域行政をどうつくるのか、また、取り残された小規模町村をどう支えるのか、広域行政としての県の役割が改めて問われています。


・地方切り捨て、弱者切捨ての国に厳しい批判

 国に望むことでは、合併の有無に関わらず、首長から国に対し強い批判が渦巻きました。
 「(新型交付税の動きに)あきれたものが言えない。島根県は主義・主張を強く打ち出すべき(雲南市長)」「ナショナルミニマムに相当する社会資本に地域格差は断じてあってはならない。道路、下水道、情報は全国一律に(東出雲町長)」「小泉さんがやられたのは地方切捨て、弱者切捨て。小泉以降、地方の立場に立った政策を実施してもらいたい(浜田市長)」「交付税は食い扶持ではなく土俵をそろえるもの。都会との格差はもっと出る(海士町長)」などであり、政治のありようについての自治体現場からの批判は痛烈でした。
 合併議論が、分権改革を推進するという建前とは裏腹に、地方への国の財政負担の転嫁という形で進んでいる現状は異常と言わざるを得ず、この点での国の責任は重大です。


・職員の能力向上がこれからの地域を左右する

 最後に、職員に期待することでは、「役場で働いている以上、主役は町民。行政サービスに従事している職員という意識を強く持って(東出雲町長)」「地域に信頼される職員であって欲しい。接遇日本一の雲南市をめざしている(雲南市長)「住民あっての職員ですから、一生懸命やっていたらわからないわけがない。評価の高い職員と思っている(浜田市長)」「賃金カットは職員の意見で未来への投資。考え方は日本一。かれらの思いはうれしい(海士町長)」「分権自治の眼目は、職員の危害と意識と能力向上。ここができれば、財源や権限はついてくる(出雲市長)」とさまざまな声が出されました。
 住民あっての職員であり、その能力向上がこれからの自治体行政を左右するといっても過言ではなさそうです。


●県及び有識者インタビューから見えてきたもの
 
 今回の市町村合併の進展により、県の地方機関の見直し(統廃合・縮小)が加速。県議会議員の選挙区も、2007年(平成19年)4月の改選から見直され、より広域の視点に立った県議会での論戦が期待されるところです。
 こうした観点から、県全体に視野を広げ、引き続き関係者の意見を集約しつつ、今後のあるべき自治体像を探ることとしました。
 キー・パーソンとして、県の担当責任者であった小林淳二さん(元地域振興部参事、現農林水産部長)、松江・八束合併協議会に出向し、現場での苦労を体験した藤間博之さん(元松江・八束合併協議会事務局次長、現市町村課権限移譲推進室長)をピックアップし、インタビューを試みました。ここで、特徴的な声を拾ってみます。


・合併が市町村を考えるエネルギーとなった。

 県の合併担当責任者であった小林淳一元地域振興部参事は、「住民の方をどこまで巻き込んだ議論だったのかは、地域によって全部違うが、その市町村を考えるというエネルギーは、ここ何十年の間で最も高まった数年であった」と述懐しています。
 あたりまえにあるものと考えてきた市町村が変わる、変わらざるを得ない現実を突きつけられた住民、首長、議会は、改めてわが地域を見つめ直し、これからどうあるべきかを自己責任で選択することになりました。ごく一部の中心市(例えば松江市等)のように、周辺部を吸収するという程度の意識しか持ち得なかった地域(住民)もありましたが、大方の県民には、地域が消えるほどの切迫感を持った苦渋の選択であったに違いありません。
 この経験を活かし、県のあり方も含めて、自らの住む地域のあり方や未来像に常に問題意識持ち、まさに「自治」の名にふさわしい、市民が責任を持って行政をコントロールする一歩として、この合併(単独選択)議論が引き継がれていくことを期待します。


・移行期間の市町村合併

 合併後1〜2年の現状では、先送り課題も多く、また、市町村建設計画を具体的に動かし始めた段階で、一体感の醸成や財政的な制約を克服する途上にあるというのが現実のようです。小林淳一元地域振興部参事は、「まだ移行期で3年かかる」と言い切っています。
 合併の目的の一つであった住民との協働について藤間権限移譲推進室長は、「従来の役所に全部お任せではなく、地域のことはまず住民で考え、足らざるところ、必要なところは役所が担うという、松江方式の協働のスタイルをつくって欲しい」「地域づくりには、真の住民力が問われる」と指摘しています。
 その際に、より広域の行政体となった市町だけに、自治体職員が、従来にも増して地域活動に積極的に参画することから、より地域の現状や課題を知り、施策に反映していくキャッチボール作業が必要になっているのではと考えます。


・権限委譲で問われる市町村、そして県の役割

 現状最も課題となっている県から市町村への権限移譲問題。県は、2007年3月に権限移譲計画を見直し、移譲メニューを216項目に大幅に拡大。積極的な権限移譲を市町村に呼びかけています。
 担当の県の藤間権限移譲推進室長は、「ニア・イズ・ベター」「市町村優先の原則」を掲げ、権限移譲は市町村合併を推進してきた理念の延長線と強調しています。一方、「権限移譲は、ある意味県の自己否定」という小林淳一元地域振興部参事の発言もあり、県・市町村合わせた地方行政をどう再構築していくのかという処方箋は、現段階見えていません。
 福祉事務所の市町村設置が全国一進展している成果もありますが、市町村側は、合併後の移行期に置かれ、「まだら模様」で体力差が大きいという現状にあり、思ったほどの成果に結びついていない側面も伺われます。
 また、松江市が求める教員の人事権や保健所機能の課題では、松江市にとってはプラスでも、周辺の他の市町村にはマイナス影響がでるという側面も考慮せざるを得ません。
 県のメニューが出揃った今、今後は市町村の姿勢が問われます。また、権限移譲が進む段階では、県の組織や体制をどうしていくのかという課題も残されており、今後の推移を見極めながら、一歩一歩進みつつ考える現実対応が求められていると言えそうです。


・地方の声を反映した分権改革に

 まず、小林元参事は、「地方分権は、国と地方を合わせた行革。しかし、今は国は無傷のまま地方に行革を迫っている」と国の責任を強調し、地方の声を反映したシステム設計と工程表づくりを提案。地方の痛みに鈍感な国へのいらだちの思いをのぞかせています。
 藤間権限移譲推進室長は、「道州制は別として、県は、市町村を包括する広域自治体として、より高い広域機能や補完機能を果たしていく必要がある」といた上で、「島根の場合は、県・市町村とも極めて小規模・零細であり、中山間地域や離島というハンディを抱え、教科書的な分権論では済まされない現実がある。水平補完とか垂直保安とかを含め、島根独自(バージョン)の県と市町村の役割分担や関係を考えるべき」と指摘しています。
 国の分権への取り組みが財政論にすり替えられている今、霞ヶ関官僚主導では真の分権改革が進まないことは明らかであり、地方の創意工夫で自治体の行政機能を充実させ、地方から国の地方のあるべき論を提起し国に実行を迫っていく必要もありそうです。


・地域を担う気概を持って立ち上がろう

 県・市町村職員に期待することとして、藤間権限移譲推進室長は、中央追従ではなく自らのアイディアによる政策づくりや実行力、その責任を担う気概を指摘。同様に、小林前参事も、マインドの問題を指摘。「システムや形にマインドがついていかない限り本当のものにならない」とした上で、地方財源は残念ながらまだ減っていくという覚悟が必要であり、産業振興による税金に頼らない食いぶちづくりを提起しています。
 2006年を転機として、人口減少社会に突入しました。「右肩上がりの成長の時代ではない」「国依存は立ち行かない」という現状認識を新たにしつつ、地域を担う気概と使命感を持って日々の行政に取り組んでいく、自治体職員の意識改革こそ重要です。


●島根の生命線の地方交付税は・・・

 ここで、合併とともに進められてきた「三位一体改革」について触れます。
 「三位一体改革」は、税源移譲、補助金削減、交付税見直しを一体で進めようとするものですが、税源移譲と補助金削減は、どれだけ減らしてどれだけ増やすかという「量の改革」である一方、交付税見直しは、自治体間の財政力(税収)格差をどう調整するか、自治体に最低限必要な財源とは何かを探る「質の改革」です。
 税源移譲されても税収が上がらない小さい自治体にとっては、交付税による財源保障は自治体存続の「命綱」に他なりませんが、国レベルの収支均衡をめざす財務省サイドからは、削減の圧力が強まるばかり。「総額確保」を叫ぶばかりでは問題解決にならず、自前の財源に乏しい自治体が最低限の住民サービスを維持するにはどんな仕組みが必要なの、しっかりとした「地域経営の哲学」を掲げ、国に論戦を挑むことが必要となっています。
 交付税制度の最大のネックは、景気低迷とともに、所得税など国税5税の一定割合(法定税率)では足りず、特別会計で膨大な借金を加えて地方に配分している点。2004年(平成16年)度の法定税率分12兆7,000億円に対し、不足分は8兆4,000億円であり、借金での制度維持は限界とも言われます。
 交付税は地方固有の財源であり、「自動振込み」で地方自治体が手にすべき財源に他ならず、地方交付税法では、交付税総額が自治体の算定と異なる状況になった場合、「法定率の変更か制度改正を行う」こととされています。
 しかし、現実には、法定率の変更も制度改正のいずれも放置されたままで、総額の圧縮が先行。総務省は、2004年(平成16年)度の交付税総額を前年度比12%(2兆8,000億円)も大幅に削減。予算編成作業を進めていた自治体を大混乱に陥れました。記憶に新しい、いわゆる「地財ショック」です。
 その年、島根県では、単年度で220億円の交付税が減り、総額で450億円もの財源不足となり、以後島根県は、「ヒト・モノ・カネ」を削る縮み志向改革になりふり構わず猛進することになります。
 その後の3年間での交付税削減は5.1兆円。三位一体改革による補助金削減と税源委譲の不足分は1.7兆円にも及び、地方の疲弊が加速。悲鳴とも恨み節とも言える怨嗟の声が地方から上がっています。
 交付税総額の削減は、合併市町村も直撃。合併特例債を当て込んだ各種事業の凍結・先送りやその他事業の縮減など、合併前に策定した市町村建設計画の見直しを迫られる事態となっています。もちろん、単独を選択した町村の窮状は言うに及びません。


●全国最悪となった島根の市町村財政

 県市町村課は2007年(平成19年)9月7日、2007年度の県内21市町村の実質公債費比率を発表。全国で初めて全団体が18%を超え、地方債を発行する際に国の許可が必要な起債許可団体になる最悪の水準に陥っていることが明らかになりました。
 全市町村が県の許可がなければ借金できないというのは、全国で島根県が初めて。身の丈に対して借金過剰の市町村が占める比率は全国の都道府県で突出。過度に借金に依存し、その返済負担が重くのしかかっている窮状が突きつけられています。
 比率が最も高いのは飯南町で26.9%。続いて斐川町が26.5%、西ノ島町26.3%、安来市25.1%、浜田市25.0%で、前年度はゼロだった25%超は5市町に及んでいます。最も低いのは江津市の18・6%。加重平均は23・0%となっています。
 県内市町村の借金残高は7,048億円に上り、バブル崩壊前の90年当時に比べ3倍近くに膨れあがっています。自治体の持ち出しの少ない有利な起債を利用しながら事業を増やしてきましたが、そのことが身の丈を超えた借金を背負わせる結果となっています。
 こうした不健全な財政状況を踏まえ、実質公債費比率の数値引き下げに向け、18市町村が06年度計67億円の繰り上げ償還を行っており、本年度以降もほとんどが繰り上げ償還を予定しています。
 合併により、強い財務体質をつくることが当面の課題でしたが、合併前の駆け込みによる事業執行も各地で散見されており、財政負担を付け回す結果ともいえます。また、市町村建設計画盛られた事業の中止・休止も議論されつつあります。
*実質公債費比率は、税収や地方交付税などを加えた標準財政規模に対し、自治体が抱える借金返済に充てる公債費の比率を示す数値。対象は、一般会計や特別会計のほか、第3セクターなどの借金返済分も含む。04〜06年度の3ヵ年平均で、県の実質公債費比率も18.1%で要注意ライン超。自治体の財政破たんを防ぐため、早期是正措置を含めた財政健全化法が2009年度から全面適用され、財政再建団体に転落する前に早期健全化基準を設け、基準を超えた市町村は早期健全化団体に指定される。そうなると、歳出削減など厳しい財政規律を求められ、財政危機の程度に応じて自治体の財政運営の自由度が奪われることとなる。

●衝撃的だった地経経済構造分析


 ところで、地域の生き残り戦略の一つである「合併」の方向が確定した直後の2006年(平成18年)3月、島根県は「地域経済構造分析」浜田・隠岐版を発表。翌年には、全県分析を発表しました(要約を資料Aとして添付)。
 よく言われることですが、島根県の県民総生産は、2004年(平成16年)ベースで約2兆6千億円。この内の大きな部分を行政(公)の財政支出が支えており、予算ベースで島根県(5,500億円)、市町村(4,500億円)の計1兆円。県民総生産ウェイトで38.5%となります。
 今回の地域経済構造分析を、隠岐地域を例にかいつまんで紹介すると、2003年の域内における市場産業の生産額1,078億円に対し、公的支出は585億円。今後公的支出が減少する傾向であるとし、域内の市場産業を「縮小せざるを得ない」との分析となっており、深刻な地域経済の先行き懸念が示されています。
 公的部門から生じる雇用者所得と年金は、住民所得全体の63%にも達しており、また、公的支出585億円に対する域内負担の税金は57億円(支出の10%)、年金も含めた公的支出702億円に対する税・社会保険料の負担は116億円(支出の17%)となっており、域外からの収入である補助金や地方交付税、年金などの社会保険の制度の動向に左右される地域の状況が明らかになっています。
 これは、2006年度に行われた他の行政圏域の分析結果でも同様となっています。
市町村合併は、単に行財政の仕組みの見直し、財政論(経費節減)という視点だけでなく、当然ながら、地域住民の所得を確保し、生活を支えていくための仕組みのリストラクチャリング(再構築)との視点が必要です。
 税金を用い、経済原理では充足できえない、必要かつ適切な行政サービスを提供する行政の使命を果たすことはもちろん、一方で、地域経済をどう支え、持続的な生産を通じて地域を維持するのかという「経済」の視点も、島根のような地域では不可欠であり、市町村合併が一段落した島根県において、改めて考えるべき課題となっています。


●市町村合併の光と影

 1年余の取り組みにより、「市町村合併の光と影」を明らかにすることをめざしましたが、残念ながら、その役割を充分に果たすような分析・評価とはなりえていません。
 ごく概括的に、「光と影」を列記することで、関係各位の議論に資したいと考えます。


市町村合併の光

@地域に目を向けた議論が活発に行われたことで、住民や自治体職員の自治意識が高まった
A行政リストラの側面では、当面の財政危機を回避し、広域での地域づくりに動き出した
B広域の視点で、より効果的・効率的な事業実施に目が向けられるようになった(特に、広域での議会となったところ)



市町村合併の影

@行政リストラの側面が重視され、「住民との協働」や自主・自律の仕組みづくりなどが立ち遅れている
A合併による財政再建を目論んだが、国の一方的な財政改革(交付税等の削減)により、一層厳しい財政危機を迎えている
B県内経済の下支えだった公的経済(ヒト・モノ・カネ)が縮小しつつあることで、地域経済に少なからぬ影響を及ぼしつつある



 また、現状は、合併後の課題整理や体制整備になお時間がかかっているのが率直なところであり、合併の有無に関わらず、それぞれの自治体、厳しさを増すこの1年、この1月、今日・明日の行政運営に日々向き合い苦闘している状況が浮かんできていま。
 その意味では、現状をしっかりと認識し、地域のそれぞれの課題に真摯に向き合う行政の不断の努力が最優先に求められていることを、敢えて掲げておきたいと思います。
 そして、その責任が、首長や議会などの統治システムの良否だけでなく、直接行政サービスを担う自治体職員一人ひとりに厳しく問われていることを自覚しなければなりません。
 その覚悟を固めた上で、地方をバッサリ切り捨ててきたこの間の政治や国の動きを強く批判し、地方が主体となるあるべき「分権改革」に舵を転ずるよう、国の政策転換を求めたいと考えます。


●私たちのめざすもの(試論)

 最終まとめを行うにあたり、島根県立大学の吉塚徹教授に自治体の現状と今後のあるべき姿等について、これまでのインタビュー等を踏まえた上で、寄稿をいただきました。
 「ローカル・ガバナンスの可能性」と題するこの寄稿では、新自由主義的な改革の流れの中で、壊されていく地方の現状を指摘し、地域の人間の生命、生存、生活の質を重視していく「地域の安全保障」に責任を持つ総合主体としての自治体の再構築を提唱いただいています。示唆に富むその内容を、ぜひご一読下さい。
 こうした1年間の取り組み、検証の成果として、不十分となることを覚悟の上で、今後「私たちのめざすもの」を以下提起します。

@住民は、主権者として地域経営に積極的に参画し、事務局である市町村職員とともに、地域を担う主体となる。
A市町村は、「補完性の原則」に基づき、自らの行政能力を不断に高めつつ、住民の生命・生存、生活の質を重視する「地域の安全保障」に責任を待つ行政体となることをめざす。
B県は、基礎自治体である市町村を支援し、補完・調整の広域的機能を発揮するとともに、特に、産業振興を牽引する役割を担う。
C国は、財源論としての分権の手法を改め、真に地方が主体となる行財政の仕組みづくりに責任を果たす。
D自治体職員は、まず、国依存の意識を切り替える。NPO活動等を通じて地域の一員としての役割を積極的に担い、日常の行政事務を市民の目線で見つめ、見直す。



●終わりに

 この間、自治労島根県本部及関係の県・市町村職員組合のみなさまに、多大のご協力をいただきましたことに感謝いたします。また、お忙しい公務をさいて取材に応じていただいた各市長・町長さん、県始め関係者のみなさまにも心より感謝いたします。
 いずれの首長・関係者も、厳しい財政事情を抱える中、精力的に、前向きに自治体行政に取り組んでいる熱意を強く感じました。
 もちろん、首長はその地域のトップであり、地域の住民生活への責任から一日たりとも逃げられません。財政危機を始めとするさまざまな苦境に向き合い、前向きに取り組むその誠実な姿勢に敬意を表します。
 惜しむらくは、こうした地域の奮闘や悩みを汲み上げる政治(特に国政)の役割が十分機能していない側面も明らかとなりました。
 国際化、情報化、少子高齢化、地球規模の環境問題など未曾有の歴史の転換点に立ち、政治の役割、とりわけ政治家の時代認識や構想力が鋭く問われており、それを選択する市民の責任を改めて指摘し、1年半余の検証を終えての報告とします



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