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オーストリア・バイオマス視察

 トータルなCO2排出のないバイオマスの利用が注目されています。
 なかでも、木質エネルギーは、太陽光の力で炭素を貯え成長する木材を燃料として利用するもので、北ヨーロッパでは総エネルギーの2割近くを賄う主軸です。
 技術的にもほぼ完成されたものであり、何よりも木材の価値を高めることで林業を活性化し、雇用を生み出す経済効果が大きいことが重要です。
 今後、島根県における利用を考えるため、2月に行われた県・木質バイオマス協会主催のオーストリア視察に参加しました。
 木質バイオマス利用は、理想ではなく実践として地域産業を支えています。
 以下、視察の模様を掲載します。 ご意見・ご質問をお寄せ下さい。
  

主催:島根・木質バイオマス協会
後援:JETRO(日本貿易振興機構)
日程:2006年2月5日(日)〜12日(日)


        目     次−
・2/5 関空から15時間30分の長旅
・2/6 家族会社のグレートなチップ製造機
・2/6 田舎の鉄工所がつくるビッグなボイラー
・2/6 コンパクトで高効率な燃焼ボイラー
・2/6 木材は「天然のエネルギー電池」
・2/7 でかい、すごい、これが世界標準の製材所
・2/7 あったかに生活にとけ込むバイオマス
・2/7 産官学連携の研究成果を地域に波及
・2/7 「緑のハート」シュタイヤーマルク州
・2/8 バイオマスを砕く親父集団の果敢な挑戦
・2/8 地球環境との共生を訴えるバイオマス水道屋
・2/8 最新鋭機械で集材する近代的林業
・2/9 設備投資は4倍、燃料費は半分のバイオマス
・2/9 村長の家はバイオマス利用の農家民宿
・2/9 政府の補助は雇用を増やす意味がある
・2/9 快適に、経済的に変わる修道院
・2/9 バイオマスのことを考えない人は時代遅れ
・2/9 農家・林家はエネルギー家になっていく
・2/9 製材所から始まったエネルギー会社
・2/10 ライセンスを持った町工場の技術屋さん
・2/10 雪道は八甲田山状態、軍隊も出動した大雪
・2/10 街に響くストリート・パフォーマンス
・2/11 ワールドカップ・グッズ見つからず
・2/12 まず、「はじめの一歩」を踏み出そう!



2月5日(日)関空・フランクフルト・クラーゲンフルト


●はじめに

 関空から15時間30分の長旅

 前日4日の夜10時30分、夜行バスでJR松江駅を出発。朝7時前、阪急梅田駅で乗り換え、リムジンバスで関西国際空港へ。県・木質バイオマス協会事務局長の樺n域システム研究所・佐藤さんがご一緒でした。
 8時前に関空に着いてカレーで腹ごしらえ。そうこうするうちにミッション団9名が揃い、名刺交換。島根・木質バイオマス協会の小池浩一郎会長(島根大学生物資源科学部助教授)、事務局長の佐藤さん、そして、会員の伐採業者や製紙パルプ業者、建築・建設会社の役員など多彩な顔ぶれとなりました(事務局次長の遠藤さんはクラーゲンフルトで合流予定)。参加者が益田・鹿足に偏ったのが残念でした。
 この日の関空は相当の混雑。手荷物検査で100m近い長蛇の列に並ばされました。自分のことは棚に上げ「暇な人が多いな」と思ったものです。
 10時30分、ほぼ満席となったルフトハンザLH741便が関空を出発。とにもかくにも、飛行機の長旅は寝るのが一番。ビールとワインをお代わりしながら、ひたすらドイツのフランクフルト国際空港到着を待ちます。
 約12時間のフライトでフランクフルトに到着。プロペラ機(定員30名ぐらいのちっちゃいやつ!)に乗り換え、オーストリアのクラーゲンフルトへ向かいます。別便の県・木質バイオマス協会事務局次長の遠藤さん(島根県林業課木材振興室)と合流しました。
 1時間30分のフライトで到着しましたが、すでに夜の6時。時差8時間分を加え、日本時間では深夜2時(翌日)です。松江出発から都合27時間30分、関空からは15時間30分の長旅となりました。
 このグラーツ空港は、2002年に公共交通視察でも訪れましたが、ちょうど出雲空港の雰囲気です。市内のホテルに入り、ビールで乾杯して視察の無事と成功を祈念しました。


2月6日(月)クラーゲンフルト

 クラーゲンフルトは、オーストリア南部のイタリアに接したリゾート地・ケルンテルン州の州都です。ウィーンから特急で4時間。商工業の中心であり、文化の薫り高い街はいつもにぎわっています。人口は9万2千人。「地球の歩き方06・07版」
 

●車載チッパー製造会社・ベンテル    8:30〜10:30

 家族会社のグレートなチップ製造機

 オーストリアの朝です。北海道よりも寒いと聞いていましが、空気が乾いているせいかそれほどには感じません。もちろん、氷点下なのですが・・・。
 ここからは、JETROの負担で用意いただいたバスに乗り、以後5日間の全日程は、運転手付きのVIP・BUS移動となりました。
8時30分ホテルを出発。30分ほど走ってクラーゲンフルトの郊外に出ると、島根県を走っているのと勘違いするほど同じような景色。小さな小川、小高い山、狭い耕地、そして、一面の雪景色が車窓に広がります。
 やがて目的地の車載チッパー製造会社・ベンテルに到着。言われなければ、これが会社とはわかりません。がっしりした体格のピーター・ベンテル社長の出迎えを受け、早速説明いただきます。
 チッパーは、木材を投入して燃料用のチップをつくる機械です。硬い木材を細かく砕くには、パワーと耐久力のある機材であることが必須。目の前には、鉄の固まりのような頑丈なチッパーがトラックに据え付けられています。
 ピーター・ベンテル社長は、元々は大手の機械メーカーの技術者で、自ら開発したライセンス技術を持って1994年に独立し、チップ機械の製造・販売を行っています。
 「丈夫な機械をというニーズがあり、このチッパーは安定した成績を残している。1台目のチッパーは、110pのドラムを登載し800馬力。投入口は110p×80pの大きさで、80pの大きさの木材まで投入可能。通常で1時間当たり130立米、最大で200立米のチップが生産できる」との説明でした。
 さらに大型になった2台目のチッパーは46トン。95pの大きさの木材まで投入可能とのことです。製紙用チップの生産には、ロータリーのチッパーが適しており、ドラム・チッパーは燃料用チップの生産用とのことです。
  社長自ら操縦席に乗り込み、車にコンパクトに収納されたグラッパーを動かしてデモンストレーション。耐久性があり、カッターは交換しなければなりませんが、その他はほとんどメンテナンス不要。ただ、交通法規より5pほど車高が高く、特別許可をもらって走っているようです。道路幅が3mあれば問題なく走れ、1台の価格は45万ユーロ(約6,300万円)とのことです。
 一通り説明いただいた後、会社の倉庫に入り、チッパーで破砕されたチップを見せてもらいます。そして、奥さん、となりの奥さん、娘さんと家族総出でウェル・カム。スプルース(エゾマツ)焼酎やサンドイッチが振る舞われました。焼酎は、松の木の香りがプンプンで、なかなか好評です。
 田舎町の家内工業的生産で、このような鉄製の機械を高い技術で組み立て販売するベンテル社長は、グレートという印象でした。


●チップ燃焼ボイラー製造会社・コールバッハ    11:00〜12:30
 
 
田舎の鉄工所がつくるビッグなボイラー

 ベンテル社を出て、また30分ほどバスで走り、山々に囲まれたヴォルクスベルグという街に到着。チップの燃焼ボイラーを製造している会社・コールバッハです。隣に、近隣の木材を集めている製材所が見えます。
 オーストリア人らしい顔立ちが印象的なシュランツ社長の出迎を受け、説明いただきます。
 この会社は1946年の設立。家族経営ですが、従業員は130人。400キロワット〜1万キロワットのチップ燃焼ボイラーを製造するオーストリアでは最大のメーカーになっています。

 創業以来、中央・西ヨーロッパなどで1,000カ所以上のボイラー設置実績があり、昨年は55カ所に総出力14万7,000キロワットのボイラーを設置しています。
 製品の7割が輸出で、相手先は、主にドイツ、ユーゴスラビア、西ヨーロッパなど。現在、エネルギー問題を抱える東ヨーロッパの新EUのメンバーにも話をしていますが、こうした国々は需要があってもお金がない状況のようです。アジアでは、ニュージーランドとオーストラリアが多いとのことです。
 早速工場を案内いただきましたが、企業秘密もあり写真撮影は禁止。様子を伝えにくいのですが、大型機械を製造するための16トンクレーンが天井を走っており、鉄をカットする大きな工作機械が鎮座しています。つくりかけのボイラーの骨組みが見えます。
 雰囲気は、近代的というより、まるで田舎の鉄工所という感じ。音楽をガンガンにかけながら、鉄粉やほこりまみれになった作業員が鉄の加工や溶接、部品の組み立てなどを行っています。
 コールバッハのボイラーは、木材燃料の含水率15〜60%まで対応できます。投入されたチップは、入り口の70度の部屋で乾燥されてから燃焼する仕組みになっているとのこと。こうすることで燃焼効率が上がり、コスト的にも有利になります。
 耐火煉瓦を敷き詰めた燃焼室の温度は850度で、さらに上へ行くと950度になり、ボイラー上部に設置された熱交換機で温水がつくられます。熱だけでなく、蒸気をつくって発電することもあるとのことです。
 400キロワット出力のボイラーが工場の外に置かれていましたが、3m×3m×5m程度のコンパクトな大きさ。赤と白のデザインがとてもおしゃれです。気になる価格は、400キロワット出力のボイラーが12万ユーロ(約1,600万円)、3,200キロワット出力のボイラーが90万ユーロ(約1億2,000万円)でした。
 この後の視察で、このコールバッハ社製のバイオマス・ボイラーには度々お目にかかることになります。おそらく性能では世界一のボイラーだと思います。
 

●小型・中型ボイラー製造会社・ビンダー      15:00〜16:00
 
 コンパクトで高効率な燃焼ボイラー

 昼食を食べ、ヴォイツベルグという市にあるビンダー社に。この会社は、100キロワット〜2,000キロワット出力の小型・中型ボイラーを製造しています。
 社長の第一声は、「最近注文が多くて困る」というもの。原油高騰のあおりを受け、嬉しい悲鳴と言ったところでしょうか。
 広報担当者のホイスラーさんの説明によると、ビンダー社は創立25年で従業員は100名。最初のお客さんは木材関係者でしたが、今は1割に減少し、最近では、カナダなどでの温室用暖房や国内の自治体、ホテルなどの需要が多くなってきているとのことです。
 木質ボイラーの設備コストはガスや石油ボイラーよりも割高。ロシアなどからは、「安いボイラーをつくって欲しい」との要望もありますが、「ちゃんとした燃焼制御システムを持ったボイラーでなければダメ」と強調されます。

 ビンダー社のボイラーは、燃焼ガスを長く燃焼室に閉じこめ効率よく燃やすことができ、また、熱くなりすぎないよう、排ガスを送って燃焼ガスの濃度をコンピュータ管理するシステムになっています。この点、ライバル社のボイラーは、価格は半額でも、2年くらいでガタがきているとのことです。
 生産で多いのは200〜800キロワット出力のボイラーで、耐用年数は15〜20年くらい。7年に1回耐火煉瓦を一部交換する必要がありますが、22年前につくったボイラーも現役で稼働しており、メンテナンスは簡単だといいます。
 燃料はスクリュー・コンベヤーで自動供給。中型ボイラーなら大きさ12pまで、大型なら25pまでのチップが投入可能で「5,000キロワットなら木でもOK」と軽口が出ます。
 燃料の貯蔵スペースが限られる場合、チップよりもペレットが有利となり、最近石油ボイラーを持つ病院などが、ペレット・ボイラーに切り替える例も出ているようです。
 このミッションの目的である日本での販売についてですが、過去1台売った実績があるものの、代理店はまだないとのことで、日本で代理店となるには、溶接やメンテナンス技術を持った人が必要で、1月程度の研修を受けてもらいたいとの話でした。
 この会社の隣接に巨大な石炭火力の発電所がありました。通常この発電所は休止しているのですが、今年は寒い冬で電力需要が高まったため、稼働を再開させているとのことでした。
 日本の電力需要は、夏の7月下旬から8月初め、冷房のエアコンがフル稼動する時期がピークですが、オーストリアの夏はもちろんエアコン要らず。電力需要のピークは、最も寒くなるこの2月なのです。


●小型・中型ボイラー製造会社・ビンダー      16:00〜17:00
 
 木材は「天然のエネルギー電池」

 この後、近くにあるビンダー社のボイラーを使った地域熱併給施設に出かけます。
 ここでは、木材チップを燃やした「熱」エネルギーで温水と電力をつくり、配管で温水を周辺の家庭に供給。給湯・暖房の「熱」を売っています。
 スウェーデンやドイツ、オーストリアなど北ヨーロッパでは、木材チップ(バイオマス)の熱利用は、ごく一般的な技術でありエネルギーの利用形態です。チップはエネルギー源であり、それから出る「熱」は市場で取り引きされる経済「財」なのです。しかも、バイオマスを燃やす際に排出されるCO2は、木材の成長過程で再び吸収され、トータルのCO2排出はゼロ。木材は「天然のエネルギー電池」と言われる所以です。
 ちょっと大きめの倉庫といった雰囲気の建物が熱供給施設で、すぐそばの山際に、いわゆる林地残材のような木の枝や葉っぱが積まれています。日本だと、もうどうしようもないゴミですが、これもチップ化して燃料として使われるようです。
 熱供給施設では、300キロワット出力のビンダー社のボイラーが稼働しています。オーストリアの一般家庭の熱需要はだいたい15キロワット程度で、この施設では、周辺の20軒の家庭に熱供給をしています。
 施設の入り口にある橋には、断熱材で巻かれた温水配管が架けられています。これで家庭に温水を送り、送った流量と行き帰りの温度差で熱量を計算。基本契約料の他、従量料金で1立米当たり3〜5セント(約4〜7円)で販売しているようです。

 ビンダー社に帰ってお別れをし、2時間走ってグラーツへと帰ります。街の中心にあるペンションに到着。1階がパブを兼ねているペンションのロビーでキーを受け取りチェックイン。広くきれいなツイン使用の部屋で、これから3泊することになります。
 夕食は歩いてレストランに・・・。実は、2002年に超低床路面電車(LRT)の視察に訪れたのがこのグラーツ。懐かしい思いを抱きながら、世界遺産に指定されている美しい街並みの中心市街地を歩きます。
 当時見た狭く折れ曲がった道路、まるで松江の殿町通り並みですが、そこに複線の軌道が敷設されており、スルスルと電車が通過していきます。路面電車に電気を送る架線は、クモの巣方式。両側の建物にアンカーを打ち込んで電車に電力を送る電線を支えています。
 ミッション団の県石見振興担当の岩城参事に、「路面電車も架線も古い街並みにしっとり溶け込んで、決して景観が悪いなんて言えないでしょう」と声をかけました。


2月7日(火)グラーツ

 グラーツは、オーストリア第2の都市で、人口は22万6千人。スロベニアと国境を接するシュタイヤーマルク州の州都で、州の50%は森林。グラーツ旧市街地はユネスコの世界文化遺産に登録されており、レンガ色の屋根が続く美しい街並みです。15世紀には、イスラム教・トルコ軍に対するキリスト教の東の砦として重要な位置にありました。この地方の気候風土と地形はワインづくりに最適で、有名なワイン生産地となっています。「地球の歩き方06・07版」
 

●大型製材所・メイヤー・メルンホ         9:00〜11:00
 
 でかい、すごい、これが世界標準の製材所

 相変わらず寒い朝。マイナス7度。と言っても市内に雪はなく、遠くの山がうっすら白い程度です。8時にはペンションの前の広場の露天が店開き。野菜や果物を買う人の姿も見えます。
 この日の朝、オーストリア・バイオマス協会のコペッツ会長も合流しました。コペッツ会長はヨーロッパ・バイオマス協会長も兼ねるこの分野の世界の第一人者。バスの中で歓迎のあいさつと今後の予定をお話しいただきながら、レオーベンというところにある目的地・大規模製材所・メイヤー・メルンホに向かいます。
 1時間ほどで工場に到着。山林に囲まれた村の中にある製材所は、大きすぎて大回りして入り口を探します。早速現場を見ながら説明を受けます。
 工場は、全てがビッグ・サイズ。うずたかく積まれた木材丸太を運搬する機械は、ボルボ社製。高さは10m以上、タイヤは人間のサイズを大きく超え、手の先についた丸太を掴むグラッパーと言われる機械が、10トン車一杯分くらいの木材を一掴みし、運んでいきます。
 まず、木材丸太の選別機を見ましたが、毎分200mというハイ・スピードで丸太が流れていき、太さで自動選別されストック・ヤードに落ちます。重い丸太が、ごとんごとんと音を立てて落ちる様は圧巻です。

 操縦は一人のオペレーターで行われており、ボルボのあの運搬機で運び込まれた丸太が選別機に入れられ、皮がむかれ自動選別される過程をモニターしています。ここに入る木材の98%はエゾマツ(スプルース)、2%がカラマツとのことです。
次に、敷地内にあるバークや製材くずを使ったボイラー施設を見学。この施設は、メイヤー・メルンホとエネルギー協会がつくったBKLという会社が運営しています。
 コールバッハ社製の1万キロワット出力のボイラーが3つ置かれ、熱(85%)と電力(15%)を同時に取り出し、工場のエネルギー源に使う他、1,000世帯に熱を供給しています。
 気になる燃焼灰は、肥料として再利用されるか、セメントに混ぜられるそうです。この施設の管理に従事する職員は5人。24時間交代で運転されています。
 かんな屑でペレットをつくる大きな製造器も設置されており、2台で1時間当たり9トンのペレットを製造。これも24時間フル稼働。全てを無駄なく使い尽くす「もったいない」の実践がありました。
 戻って、製材行程を見学。これもオートメーションで機械の上を丸太が流れ、30mぐらいの行程の中で、丸太が全て板材に製材(スライス)されます。さらに、品質をチェックする行程へと流れ、検査員が目視で選り分けペンでマーカー。その有無で板材が品質ごとに自動選別され、最後に待ち受けたフォークリフトが集材。乾燥工程へと運ばれます。

 工場の敷地内には、高さが20m、長さが100mはあろうかと思われる巨大な乾燥施設があり、白い水蒸気が立ち上ります。もちろん、先ほどのチップを燃やした熱の供給を受けています。
 メイヤー・メルンホは2万ヘクタール以上の森林を所有しており、この工場では、1日原木3万本、5,500立米の木材を受け入れ、年間125万立米の木材を生産。換算すると、1日当たりの製材量は、島根県の小さな製材所の1年分の製材量に匹敵します。「でかい」「すごい」と思いましたが、今やこれが世界標準。日本の製材の近代化の遅れを思い知ることになったに過ぎません。
 この製材所で生産されている板材の市場は主にイタリアとのこと。チェコにも工場があり、日本にも売り出したいとの話でした。
 以前、岡山県にある西日本最大の集成材会社・竃チ建工業を訪れ、仕入れる木材のほとんどがオーストリアやフィンランド材と聞いてビックリ。地球を半周した木材が、日本の木材よりも安いのはなぜかと疑問を抱いたものですが、視察の後半で見ることとなる近代的な集材技術やここで行われている大規模な製材技術が、国際的なコスト競争を勝ち抜く原動力になっているに違いありません。


●ペレット住宅暖房          14:30〜15:00
 
 あったかに生活にとけ込むバイオマス

 郊外のレストランで昼食。「ぞうり」のようなトンカツや皿一杯の魚の料理が出ます。オーストリアの料理はとてもたっぷりで、日本の食事の2倍は量があります。
 昼食後、ペレット・ボイラーを設置しているグラーツ市内のお宅を訪問。道路側に面した床下の貯蔵庫(サイレージ)を見せてもらいます。
 ちょうどここに来る途中、高速道路で追い越したバイオマス・ペレットを積んだコンテナ車がありましたが、その車が年2回、この家に燃料を運んでいるとのことでした。
 地下のボイラー施設を見学。30キロワット出力のペレット・ボイラーで、冬は温水と暖房、夏は温水をつくり、2世帯分を賄っているとのご夫人の説明でした。灯油ボイラーから5年前にペレット・ボイラーに切り替え、2世帯分の施設整備費は2万ユーロ(約280万円)。それぞれの世帯に1,400〜1,800ユーロ(約20〜25万円)の補助金が出たようです。
 この5年間で2回故障。1回は燃料を入れるスクリュー・コンベヤーの設計ミス、もう1回は「灰を取り忘れた」とのジョークでした。灰の取り出しの時の埃が唯一の欠点とぼやきます。
 よい点では、@化石燃料からの脱却、A安く経済的、B補助金が出る、3点をあげられました。現在、灯油1リットルは60セント(約84円)ですが、同じ熱量のペレットは2s、価格は32セント(約45円)で、ほぼ半分の燃料費となります。
 ボイラーをつくったKWB社が年1回メンテナンスに来るほか、オーストリアでは一般的な煙突掃除屋さんが年2〜3回来るようです。
 一般的な住宅でエネルギー消費が一番多いのが「熱」。しかも100度までの低温の熱需要であり、電力のような質の高い、またハイ・コストのエネルギーを「熱」需要に対応させる必要はありません。
 しかも、近い将来枯渇し環境問題も引き起こす化石燃料よりも、CO2排出がなく地元林家の所得になるバイオマスが「おしゃれ」という発想です。あったかに、着実に、バイオマスは生活の一部になっています。
 その後、隣の家にも案内いただきましたが、驚いたことに、ここがコペッツ会長のご自宅。薪ストーブのペチカが家の中心にあり、奥さんにお迎えいただきました。歓迎の焼酎で乾杯。若干歓談をして失礼しました。


●燃焼装置開発設計・バイオDNDシステム  15:50〜16:30
 
 産官学連携の研究成果を地域に波及

 グラーツ市内のバイオマス燃焼装置の開発設計会社・バイオDNDシステムを訪問します。ウィーン出張中の社長が大雪で帰れなくなったとのお詫びがあり、その後、パワーポイントを使ったプレゼンを受けました。
 この会社は1995年の設立で、従業員は24名。バイオマス利用の研究で名高いグラーツ工科大学での研究成果を具体化するため、関係者が設立した会社でした。
 他のヨーロッパ諸国もアメリカもそうですが、「産官学連携」が当たり前に根づき、経済的な成果に結びつける努力が行われており、その姿勢は、日本もぜひ学ぶべきです。
 この会社は、オーストリア国内はもとよりイタリア、オランダ、ドイツでも仕事をしており、最近は、アメリカ、フランス、ギリシャ、ハンガリー、アイルランドなどにも出かけるようです。
 これまでの実績として、バイオマスの地域熱供給プラントを国内で3つ(総出力1万6,100キロワット)、国外で4つ(総出力3,700キロワット)設置しています。また、熱電併給のCHP(コンバインド・ヒート・アンド・パワー)プラントで、国内で11(熱出力9万8,800キロワット、電力出力1万3,600キロワット)、国外で2つ(熱出力1万5,200キロワット、電力出力2,800キロワット)を設置しているとのことです。
 また、熱電併給のCHPプラントを国内で6つ、国外では1つ計画しており、リンツ市では、熱出力1万4,000キロワット、電力出力1,000キロワットのEUのデモ・プロジェクトも担当しているとのことです。
 バイオマス普及には、こうしたシステム設計や具体的なプログラム企画をするコーディネーターは欠かせないものと思われます。


●シュタイヤーマルク州農林会議所         17:30〜19:00
 
 「緑のハート」シュタイヤーマルク州

 シュタイヤーマルク州農林会議所でワーク・ショップ。以下はその要約です。


エベル(シュタイヤーマルク州農林会議所・農業担当役員)

◎この会議所は、シュタイヤーマルク州の農家・林家が参加して1920年に設立されました。補助金の申請窓口や法律などのアドバイザー的仕事を担っています。本庁はグラーツで、州内の14カ所に支所を持ち、作物、林業、法律、サービス、動物の担当課があります。
◎コペッツ会長は、農林会議所の代表を努めていましたが、数日前に定年退職。現在オーストリアとEUのバイオマス協会の会長を務め、国際的なコンタクトがあります。
◎シュタイヤーマルク州は、オーストリア南部にあり、面積は1/4を占めます。州には、4万8,000軒の農家があり、その内1万6,000軒は専業。農家数が減少しつつある中でも、専業農家数は増えています。
◎州の北部は山が多いため、酪農家や林家が多くなっています。1万6,000軒の酪農家が以前ありましたが、今は8,000軒に減少しました。しかし、牛乳の生産は年間48万トンで、ここ4年間ほとんど変化はありません。約4,000人の林家が約100万ヘクタールの山林を所有しています。
◎州の南部は山林が少なく、ワイン畑が4,000ヘクタール、りんご畑が5,000ヘクタールあり、6万ヘクタールで飼料用のトウモロコシをつくっています。


ステファン(シュタイヤーマルク州農林会議所・林業担当役員)

◎シュタイヤーマルク州は、オーストリアの「緑のハート」と称えられるように、面積の6割を山林が占めています。
◎会議所の運営は、会員の会費と政府・州からの補助金で支えられています。山林1ヘクタール当たり年4ユーロ(約560円)、ワイン畑は1ヘクタール当たり年15ユーロ(約2,200円)、畑は1ヘクタール当たり年8ユーロ(約1,100円)を支払うことが会員の義務になっています。


 最後に、コペッツ会長から、昨年の日本訪問の際、六日市町(現吉賀町)の温泉施設を視察。そこの「700キロワットの石油ボイラーをバイオマスに転換したらと話しましたが、その後どうなっていますか」と質問がありました。
 ミッション団の島根県・石見地域振興担当の岩城参事が、「役場の幹部に聞いたところ、やりたい気持ちはあるが、去年町長が代わって議論が中断。しかし、やる気は変わっていない」との答えです。
地元吉賀町(旧柿木村)の(株)リンケンの田村社長からは、「小池先生が新エネルギー・省エネルギー計画策定委員長になって検討されているが、現状は3〜5年先にという状況で進んでいない。それよりも、旧柿木村役場のボイラーが更新期を迎えており、そちらの方が現実的ではないかと思う」との補足説明がありました。
 また、「山口県の雙津峡(ソウズキョウ)温泉で、最近ペレット・ボイラーが導入されたが、それは、灯油とペレットの値段を比べ、ペレットが安いとの判断」との話もありました。



2月8日(水)グラーツ


●車載チッパー製造会社・スターチル        9:30〜11:00

 イオマスを砕く親父集団の果敢な挑戦

 朝7時30分ペンションを出発。高速道路を2時間余りひた走り、だんだんと山を分け入ります。さながら、奥出雲町に上がってきた感じでしょうか。屋根には凍結した雪が30pくらい積もっていますが、日本に比べて重たい雪でないため、「屋根がつぶれる」という感じではありません。
 そうこうするうちに、セント・ランプレヒトという小さな村に到着。凍結した道路を走り、スキー場とスポーツセンターが隣にある車載チップ製造会社・スターチルに着きました。社員総出の出迎えです。以下、社長の説明を要約します。


◎ここでつくっているチッパーの中で大きいものを見せます。チップの投入口は、幅120p、高さ80p、馬力は540PSで、タイヤで移動します。クレーンはオーストリアのペンツ社製。1時間当たり220立米のチップを生産できます。
◎従業員は15名。燃料チップが主ですが、バーク堆肥や薪などお客さんの要望に対応していろいろつくっています。このロータリー・チッパーには、どのような木材や枝を入れても大丈夫(120cmのバークもOK)で、そこが他の会社の機械と違うところです。

◎1993年に14人の林家と修道院でエネルギー組合がつくられ、そこと連携して仕事をしています。組合が持っている森林は4,500ヘクタールです。工場内にあるバイオマスの燃焼施設で温水をつくり、地域の村55軒に供給しています。長年の経験で、現場でチップ化するよりこの場所でチップにするのが最適と考えています。
◎個人の家のための燃料もつくっています。小さな家の燃焼システムは完全ではないので、できるだけ乾燥したものを供給するようにしています。ここでつくるチップは3cm以下の大きさであり、スクリュー・コンベヤーに入れて問題ありません。
◎ペレットを運ぶ車がありますが、ここではチップをコンテナで運んでいます。ペレット同様トラックで運び、20メートル先までつながるホースでチップを家に供給し、もう一方のホースで燃焼灰を吸引します。このコンテナで、200キロ先の得意先まで燃料を届けています。



 チップ製造の様子を実演いただきましたが、丸太や木の枝があっという間にチップになり、コンテナが10〜15分で一杯になったでしょうか。見ていて飽きません。
 圧巻は、直径1mはあろうかという丸太が吸い込まれた時。ものの見事にチップになったのには、ミッション団一同はもちろん、社長も「始めて見た!」ビックリしていました。
 (株)堀建設(津和野町)の堀社長は興味津々。「これ一台ほしいな〜」という感じであれこれと質問。機械の内部も見学しています。建設廃材や工事現場の木の根っこなど、処理に困る木材が建設現場で大量に発生して困っているとのこと。今回の視察が役立てばよいものです。
 ミッション団の益田市のパルプ材の会社・伸和産業(株)の山口さんの感想ですが、「日本では細い木材も製紙用のチップにされており、燃料用チップにすることはない」「日本だと、ここまで間伐材を出すのにコストが高い。1立米当たり1,000円〜1,500円はかかるからね・・・」と、日本の状況をお聞きしました。
 工場内にあるエリア・ヒィーティング施設のボイラーはコールバッハ社製。縦2.5m×横2m×高さ5mくらいの大きさです。ちょうど1月前に建物火災があり、屋根を直しているところでした。

 ここには、薪割り機もあります。電動で斧を動かし薪を割るのですが、セットするのが人力なので、それが大変そうです。薪の需要も結構あるとのことです。


●バイオマス暖房装置の設備会社・ザァイリンガー   11:30〜12:30

 地球環境との共生を訴えるバイオマス水道屋

 雪山を30分ほど降り、自称・バイオマス水道屋のザァイリンガー社を訪問します。
 オーストリアのバイオマス協会は、こうした配管会社がバイオマス施設の設置やメンテナンス技術を習得できるよう特別の教育を行っており、ザァイリンガー社は、2004年からバイオマスに関わる機器だけを取り扱うようなりました。
 従業員は40名で、内10名は研修中です。下の食堂で15才くらいの少年を2人見かけましたが、彼らが研修生だったのでしょうか。ヨーロッパは、ギルド(技能別組合)のなごりもあり、技能工になる人は、若い頃からこうした会社に就職することもあるようです。
 
 女性の社長のあいさつの後、プレゼンテーションを10分間受けます。「毎日157種類の動物と植物が地球から消えている。このままでは、人間も地球に住めなくなってしまう」「石油のために戦争をするのか、それとも(バイオマス利用で)太陽と仲良くして平和に暮らすのかが問われている」「化石燃料を燃やすのではなく、環境に配慮したバイオマスを使いましょう!」と地球環境問題を全面に打ち出した訴えでした。
 この後、店内を見学。トイレ機器、シャワー施設、流し、鏡など様々な水関係の施設が展示されており、オーストリアの住宅の生活様式がよくわかります。大小の熱配管の断熱材なども置かれています。
 店の前面にあるショー・ウィンドウには、KWB社製のバイオマス・ボイラーが置かれており、30キロワットのチップ・ボイラーには9,432ユーロ(約132万円)の値札が付いています。15キロワットのペレット・ボイラーは10,350ユーロ(約145万円)。9,466ユーロ(約132万円)の薪ストーブもありました。これらは、普通の1戸建て住宅用。いずれも、カラフルでコンパクトなつくりです。
 小池先生の話では、最近は住宅の断熱化が進められており、8キロワット程度のボイラーでも可能なようです。日本はオーストリアより気温が高いため、5キロワット程度あれば十分といったところでしょう。もちろん、全館暖房(セントラル・ヒーティング)が当たり前のオーストリアと、こたつや部屋を暖めるだけの日本とは事情が異なります。
 地下室に降り、エリア・ヒーティングの熱を受けた床暖房、給湯などの系列別の配管を見学した後、ミッション団を交えて記念撮影をし、お別れしました。
 ※ここでデジタル・カメラがダウン。以後、写真はもらい物です。すみません。


●集材・搬送機等製造・メイヤー・メルンホフ  15:00〜17:00

 最新鋭機械で集材する近代的林業

 昼食を終え、フローライテンという村に向かいます。山岳地帯は里雪状態。木の下に50センチくらいの雪が積もっています。川もバリバリに凍結。気温は相当低そうです。
 山の中腹でマイクロバスに乗り換え、林道に入ります。雪道を1キロほど山の上に上がり、タワー・ヤーダ・搬送機等製造会社・メイヤー・メルンホフの木材伐採現場に到着します。
 待ち構えていたのは、ヨハネス・ロシェックさん。この会社で40年働いている技術者です。安全のため、蛍光ベストとヘルメットを着用。50m先の伐採現場まで歩き、ロシェックさんの説明を受けます。以下はその要約です。


◎メイヤー・メルンホフ社は大きな森林所有者であり、伐採・運搬機械もつくっています。このタワー・ヤーダは「ワンダー・ファルケン」と言い、マイヤー・メルンホフ社がつくったタワー・ヤーダには、必ず「○○○○・ファルケン」という名前を付けています。
◎タワー・ヤーダに、クレーン、プロセッサーを組み合わせて集材します。全体の重さは44トン。特に、急斜面での作業に対応できるように考えています。長い経験からプロセッサーはウッディ60(Woody60)が最適です。

◎皆伐と間伐を組み合わせて集材しています。3m幅の作業道を開いて機材を運び込み、上から下へと架線ワイヤーを張って機械で集材します(日本の場合、作業道を谷間に入れ、下から架線を使って集材することも多いのですが、オーストリアは逆です)。昨日は50m手前の現場で作業していて、今日はこの場所に移りました。明日はもう50m上に移動します。
◎2〜3人でこのシステム使って仕事をしています。上の機械に1人、下に1〜2人です。3トンまで吊り上げ可能なキャリッジは、下の人が無線制御で呼び寄せ、伐採した木にワイヤーを掛け、吊り上げ。上で運転士がキャリッジを引き寄せ、プロセッサーで木をつかんで枝払いし、コンピュータ制御で一定の長さに切断します。
◎製紙用の細い材と製材用の太い材を分けて置いています。製紙チップ材の値段は1立米20〜35ユーロ(約2,800〜4,900円)。個人に燃料として売る場合もあります。今年は特に寒く薪の需要があるため、1立米40ユーロ(5,600円)にもなっています。
◎5年前からは一木丸ごと運び出す「全木搬出」をしています。木を伐採する人が足りず、クレーンやプロセッサーなどの機械を使った方が、伐採・集材のコストが安くなります。また、このように雪が積もっていても集材することができます。

◎集材した材木はトラックで山の中腹の広い道まで運び、そこでトレーラーに載せ代えて製材所まで運びます。製材所では、木材の重さと含水率が計られます。
◎バイオマスの量は、皆伐と間伐によって違います。また、先週はマイナス15〜17度くらいになり、枝がたくさん落ちてしまいました。寒いほど枝が落ちてバイオマスの量が少なくなります。樹種によってもバイオマスの量は異なり、ここの材はほとんどスプルース(エゾマツ)で、枝が落ちにくいので多くとれます。
◎架線を張る作業は1時間半〜2時間でできます。ここは条件がよく早くできました。この山の1,400立米の集材には、だいたい3〜4週間かかる予定です。間伐だと1ヘクタール当たり60〜70立米、皆伐だと1ヘクタール当たり350〜400立米の木材をとります。トラックの運転手に聞いたところ、昨日は145立米の木材を搬出しました。樹齢は、間伐が40年生、皆伐が86〜90年生です。 
◎シュタイヤーマルク州の南と東は広葉樹林、北は針葉樹林でスプルース(エゾマツ)が多くなります。植林の際には、カラマツは成長しにくいため、下にスプルースを植え、上の方にカラマツを植えるようにしています。


 ミッション団の堀さんや篠原さんから、「日本場合だと雨が多くて土質的も悪いため、作業道が崩れたり、ぬかるんでしまう場合が多い」との指摘が出されました。オーストリアの降雨量は年間800ミリ〜1,000ミリくらいで、日本よりも雨が少ないようですが、土質そのものが大きく異なるという感じでもありません。
 いずれにしても、オーストリアの進んだ伐採・集材技術を日本に取り入れていこうとする場合、作業道の確保が課題となりそうです。
ところで、説明を受けた伐採現場のちょうど真ん中に、鹿に餌をやる小屋が設けられていました。鹿被害が騒がれる島根県ですが、ここでは、上手に共生しているのでしょうか・・・。
 マイヤー・メルンホフからの帰路、コペッツ会長から補足説明。シュタイヤーマルク州農林会議所では、林家に安定経営してもらうため、林家に対する木材価格の情報提供や最新の林業技術の提供、また、最近ウィーンとかの都会に出てしまっている林家が元の仕事に復帰できるようにアドバイスなどをしているとのことです。
 また、政治に対する影響力が重要であり、EUのバイオマス利用計画については、原案段階でEUからオーストリアの農林大臣に照会があり、そこから農林会議所に意見が聞かれ、結果として、農林会議所は、EUに対する大きな影響力を持つことになりました。オーストリアには、「エコ電気法」という法律がありますが、この法律の原案策定にも委員としても関わったそうです。
 夕方6時ペンションに到着。コペッツ会長を交え、グラーツでの最後の夕食を終えました。



2月9日(木)ミーゼンバッハ・フォーラウ


●シュタイヤーマルク州農林会議所・ヴァイツ支所 9:00〜10:00
 
 設備投資は4倍、燃料費は半分のバイオマス

 グラーツの朝は、雪も融けて少し緩んできた感じ。子どもたちが元気に学校に通っていきます。山には少し雪が残っていますが、屋根にはもうありません。 
 8時にホテルを出発。ヴァイツに向かいます。沿道のスーパーは朝8時くらいにはオープンしています(でも、5時か6時過ぎには閉まります)。
 ガソリンスタンドに、レギュラー・ガソリン1.078ユーロ(約150円)、ハイオク1.290ユーロ(約180円)という価格表示があります。とっても高額です。昨今の原油高騰の影響はもちろん、消費税にエネルギー税もついているという背景もあるようです。薪利用の家も相当あり、軒下や倉庫に薪が積んである家をあちこちで見受けます。

 ヴァイツは、人口7,000〜8,000人の小さな街。沿道にはりんご畑が広がっています。コペッツ会長によれば、10ヘクタール当たり40トンの生産があり、農家は十分な収入が得られるとのこと。りんごは、収穫される10月〜翌年の8月まで出荷されています。
 9時シュタイヤーマルク州農林会議所のヴァイツ支所に到着。農林会議所には、14ヵ所の支店に30人のスタッフがおり、セミナーの開催や木質バイオマスのビジネス・コーディネートを行っているとのことです。

 プレゼンでは、「世界のお金のない国の人57%が、エネルギーの27%を消費している一方で、リッチな国の人13%はエネルギーの50%を消費している」との説明の後、バイオマス利用のメリットが強調されました。
 オーストリアの熱エネルギー需要は、29%を天然ガスが占め、次いで石油27%、バイオマス16%、電力8%などとなっています。バイオマス利用が始まったのは20年前からで、バイオマスの熱利用は増えつつあり、現在では57,600のボイラーが設置され、180万キロワットの出力を持っています。
 石油だと6割のお金が外国に出ていきますが、バイオマスだと地元にお金が落ちるため、石油に比べて10倍の雇用が地元に生まれるとの説明でした。
 シュタイヤーマルク州農林会議所では2005年に157のプロジェクトを行い、合計1万5,400キロワット出力の施設で、年間4万5,000立米のチップを燃やす計画を進めてきたとのことです。
 農業地域の温室暖房も、燃料コストの安いバイオマスに代わりつつあるようです。バイオマス・ボイラーの設備投資のコストは石油の約3倍であり、燃料を貯める倉庫を加えると投資コストは4倍近くにもなりますが、燃料コストが石油の半分になっており、投資は十分回収できるとの説明でした。
 コペッツ会長のお勧めは、8割をバイオマスで賄い2割を石油で賄うシステムです。石油をピーク時に対応させることで設備投資のコストを抑えられ、うまくいくようです。
 ヴァイツ支所を後にし、次の視察地ミーゼンバッハに向かいます。森林鉄道の幅70pくらいの非常に狭い軌道が道路と交差しています。高い山の上にも家がありますが、酪農がメインで政府から補助金が出ている(おそらく直接支払い)とのことです。
 ユーロ調達のため、街中の銀行に立ち寄り換金します。近くのスポーツ・ショップでウィンドウ・ショッピング中、バスに置いて行かれそうになり慌てました。


●バイオマス暖房の振興地域視察          10:30〜11:30
 
 村長の家はバイオマス利用の農家民宿

 石油価格の高騰を受け、1年前にバイオマスのエリア・ヒーティング導入が決まったというミーゼンバッハに到着。
 標高1,000mの高地。教会のある村の中心まで村長が迎えに来てくれました。車の窓から、農家・林家の方が、トラクターに乗って集材作業をしている様子が見えます。畑のすぐそばの、おそらくはエネルギー利用のための森林です。
 山頂付近の少し大きな家が村長のお宅。90才になるお父さん、お母さんを含め、息子夫婦、孫と、4世代が住んでいると聞きました。
 実は、農家民宿でもあり、一泊20ユーロ(約2,800円)と格安。今日は、ウィーンからのスキー客で18あるベッドが満杯。この村には全部で250のベッドがあり、年間約4万人の宿泊客があるそうです。
 家の近くに積み上げられているのは、近くの山林から持ってきた木材。チッパーでつくったチップがビニール・シートに覆われて積まれています。村人の機械を共同利用するレンタル方式でチップ製造機を借り、1年分のチップを2時間半でつくります。レンタル料は120ユーロ(約1万7,000円)とのことでした。
 地下には、KWB社製の60キロワット出力のチップ・ボイラーが置かれています。ボイラーの価格は2万5,000ユーロ(約35万円)、倉庫の改造で1万ユーロ(約140万円)かかったようです。この地下には、宿泊客向けサウナも設置されており、休暇を使い、このような農家民宿を楽しむのがオーストリア風のようです。
 以前は石油ボイラーで、1年に6,000〜7,000リットルの石油を使っていましたが、2004年10月にチップ・ボイラーに代え、今は年間150立米のチップで賄えるそうです。1ヶ月に1回灰を取り出す必要があるとのことでした。
 ここでもウェル・カムの焼酎をいただき意見交換。ミッション団から、「村の入り口に新築の家がたくさんあったのはなぜですか」との質問が出され、「オーストリアでは、結婚したら自分で家を建てるのが普通です。そして、大工や左官などの技術を持った友達がみんなで集まって家をつくるのが習慣です」というユニークな村長の答えがありました。


●バイオマスのエリア・ヒーティング視察     11:30〜13:00
 
 政府の補助は雇用を増やす意味がある

 この村のエリア・ヒーティングのエネルギー施設に出かけます。
 18人の林家が組合をつくり、熱供給施設でつくった温水を市役所や学校、3つのレストランに供給。今後、ネットワークの拡大も進められる予定だそうです。
 道路沿いの畑の中にある熱供給施設で説明を受けます。ボイラーは730キロワット出力。設備投資は75万ユーロ(約1億円)とのこと。
 内訳は、ボイラー等の機器が8万ユーロ(約1,100万円)、1,700mの熱配管のネットワーク設備が26万ユーロ(約3,600万円)、建物が13万ユーロ(約1,800万円)、施設配管が5万ユーロ(約700万円)などとなっています。
 資金調達は、4割が補助金(EUが50%、オーストリアと州が50%ずつ)、残りは銀行からの借り入れで、15年の熱供給契約に合わせ、銀行の借り入れも15年にしているとのこと。「補助金がなかったら止めていますよ」との発言もありました。
 このエリア配管では、89度の温水が、54度の温水になって帰ってきていました。熱供給の値段は、基本料金が契約キロワット当たり年16ユーロ(約2,200円)、メンテナンス料が1月当たり8ユーロ(約1,100円)、従量料金が1キロワット当たり5.5セント(約8円)です。
 石油1リットルの熱量をバイオマスで賄うコストは36セント(約50円)。石油1リットルが68セント(約95円)のため、ランニング・コストは約半分との説明です。

 この後、エリア・ヒィーティングの熱供給を受けているレストランで食事。まず、地下の熱供給施設を見学します。熱交換機で熱を受け入れ、室内配管で暖房・給湯。地下には、何と温水プールとサウナまで設置されておりビックリしました。
 同行していただいた村長から、「多くの農家は農業だけの収入しか得ておらず、余り多くありません。農家民宿による観光やこうしたバイオマスの利用をおこなうことで、農家の収入を上げたいと考えています。同時に、エネルギーの供給の問題も解決できると考えます」「バイオマス施設への40%政府の補助金は、バイオマス利用による新しい雇用を生み出すという意味にもなっています。
こうした活動を進めることで、10〜20年後には農家の経済的地位も上がっていくでしょう」「もし、シェルとかの大きな石油資本がエネルギー供給の施設をつくったとしても、農家の収入は上がりません。だから、バイオマスとか太陽光とかで、石油に頼ることがなくなればいいと思っています」「昨年まで2万ユーロ(280万円)の石油を燃やして光熱費を払っていましたが、バイオマスの利用で、去年に比べて1割ぐらい削減できており、その分は地域の農家・林家に役立っています」との話がありました。
 村長から「バイオマス・キング」と持ち上げられたコペッツ博士からは、「自然のためはもちろん、子孫のためにもがんばりましょう!」との激励を受けました。


●バイオマス熱発電を行うフォーラウ修道院  14:00〜16:00
 
 快適に、経済的に変わる修道院

 昼食後訪れたのはフォーラウ修道院。ミッション団に期待が広がりますが、待ち受けていたのは男性の修道院長。この日は、この修道院に宿泊することになりましたが、いわゆる修道女の姿は見かけることはありませんでした。
 修道院長の歓迎のあいさつ。「フォーラウ修道院は、貴族がお金を出し1163年につくられました。3,000ヘクタールの山林を所有していますが、第2次大戦までは山林の使い道が難しく、修道士たちはみな寒い部屋に住んでいました。バイオマスが利用できるようになって、だんだん贅沢になり、部屋毎に暖房が欲しいと言いだし、今ではセントラル・ヒーティングになっています」と、笑いを交えたお話でした。
 エネルギー会社を経営するエーダーさんに案内いただき、修道院に隣接して立てられているエリア・ヒーティング施設に向かいます。ちょうど熱供給施設を熱電併給にする工事をしており、来週からCHP(コンバインド・ヒート・アンド・パワー)が稼動するとのことです。
 1,000立米入る貯蔵庫から自動的にチップがボイラーに供給され、冬なら1週間分になるとのこと。チップは、周辺50キロ範囲から入ってきており、価格は12ユーロ(約1,600円)で値上がり模様とのこと。ここにあるボイラーは、5,000キロワット出力の熱電併給ボイラーで、内1,500キロワットが発電に充てられます。
 外に煙突が見え、電気集塵器で排気ガスをろ過しています。外に置かれたコンテナには燃焼灰が溜まる仕組みで、冬だと1週間、夏だと1月で一杯になります。灰は肥料として再利用されているようです。

 夕方荷物を部屋に入れます。修道院とは思えぬ近代的なつくりで、テレビがないのが「らしい」ところ。院長のご厚意で院内にある図書館を見学。歴史ある古書には圧倒されました。
 そして、一抱えもある大きく古い地球儀をじっくり観察。1686年(江戸時代初期)につくられたといわれる地球儀に、日本列島と、島根の位置に書き込まれた隠岐、石見などの地名を確認することができました。


●ワーク・ショップ        17:00〜19:30
 修道院でコペッツ会長等を交えたワーク・ショップを行いました。以下その要約です。


コペッツ(オーストリア・バイオマス協会・会長)

 バイオマスのことを考えない人は時代遅れ

◎質問に答えます。まず、「製材所までの木材の搬出コスト」ですが、高い山では1立米当たり25〜30ユーロ(約3,500〜4,200円)、車が行けるところなら1立米当たり16〜20ユーロ(約2,200〜2,800円)くらいになります。プラス、平均的100キロの輸送で7〜8ユーロ(約1,100円)。輸送費のほとんどは積み卸しの経費であり、距離は余り関係ありません。
◎「木材をチップにするコスト」ですが、伐採、搬出、輸送、チップ化で、1立米当たり14.85ユーロ(約2,000円)かかります。1キロワット・アワーのコストは、約2セント(約3円)になります。他の燃料との比較で言うと、天然ガスの1キロワット・アワーのコストは約3セント(約4円)です。
◎「オーストリアの家の何%が木造建築でできているか」ということですが、普通はレンガで家をつくるため、木造は4%です。古い家のエネルギー消費は1u当たり200ワットくらいですが、新築の場合には、法律で50ワット以下しか使ってはいけないと決められたため、パッシブ・ソーラーや断熱が必要になっています。
◎「他の自然エネルギーの利用」は、風力が131件で83万キロワット。全体の電力生産の3%程度で、主にオーストリアの東部地域が多くなっています。太陽光発電は、300万uで210万キロワット。これらで、158万トンの石炭を節約し、49万6千トンのCO2を抑制していることになります。
◎「政府の援助策」としては、1キロワット・アワー当たり10〜16セント(約14円〜22円)のバイオマスの「熱」価格が政府によって決められています。これは、設備の大きさや、固形バイオマス、製材屑、廃材、廃棄物などの種類によって価格が異なるものです。風力の場合は、1キロワット・アワー当たり7.8セント(約11円)で13年間買い取ることが保障され、今後の政策の対応が話し合われているところです。太陽光発電については、設備投資に15〜30%の政府援助があります。  
◎「大都市におけるバイオマス利用の促進」については、ほとんどの施設が1万人程度の街にあるのが現状です。今後、ウィーンでの6万キロワットのエリア・ヒーティング施設や、人口25万人のリンツ市での3万キロワット施設をつくる計画があります。
◎「1ヘクタールに何本植林をするのか」という点ですが、目的によって異なりますが、だいたい2,500〜3,000本です。オーストリアでは現在自然の広葉樹林が増えており、この15年間で25%増加しています。
◎1立米のペレットは3,300ワット・アワーの熱量があり、同じ熱量をチップで賄うとすると、1立米当たり750ワット・アワーのチップでは、約4倍の貯蔵施設が必要となります。そのため、新しい1戸建の家の場合はペレットの方がいいのではないでしょうか。
◎現在、石油の代わりにバイオマスにしたいと言う一戸建ての人が50%くらいあります。石油ボイラーのある場所をそのままペレット貯蔵庫にして、今後80%くらいの家をバイオマス利用にすることができればと考えています。

◎(Q.ペレットよりも、地域暖房が容易なチップにする方が、地域の所得を増やす意味でもいいのではないか?)ミーゼンバッハ州の農家・林家が、自分でチップをつくって発電したり熱を売ったりするのはとてもいいことだと思います。ただ、オーストリアには、13〜15ヵ所の大型製材所とセットになったペレット工場があり、輸送距離の問題も少ないため、ペレットが有望だと考えています。
◎(Q.天然ガスが日本に比べ安いのにバイオマスが普及している理由は?)天然ガスの90%はロシアから輸入しています。エネルギー税が天然ガス1立米4.5セント(約6円)、石油には1リットル6.5セント(約9円)かかります。それにタックス(消費税)20%がついています。供給の安定性の問題もありますが、何としても化石燃料は止めたいということです。
◎(Q.木を切ることによる自然への影響は?)オーストリアの林家は自分の山林を大事にしており、そのため森林が増えており、手入れもちゃんとしています。
◎(Q.製紙のためのチップ利用は経済的にいいのか?)シュタイヤーマルク州の場合、ペーパー・ミルがなければ、森林が余りすぎるぐらいです。現在は、バイオマスとペーパー・ミルの利用の差が少なくなりつつあります。
◎(Q.林道をつくることによる自然への影響は?)オーストリアの山林法は厳しく、必要最小限の林道を、しかも専門家がつくることが求められます。山林の3〜4%が林道になりますが、伐採に必要なものであり、州には現在5万キロの林道があります。
◎(Q.バイオマス利用促進のための支援策は?)一戸建ての家にバイオマス施設を導入する場合、ペレット利用で1,400ユーロ(約20万円)、チップ利用で1,800ユーロ(25万円)の政府の補助金があります。
◎(Q.PRや環境教育は?)農林会議所では、年6回15万部の新聞を発行しています。政治家にもバイオマスの利用について説明をし、バイオマスのことを考えない人は時代遅れという認識を持たせるよう努めています。また、小さな村の村長に会って考え方を伝えることも有効です。こどもたちには、森林の女神が出てくるメルヘン小説をつくってPRしています。石油業者等の広告には、その都度キチンと反論もしています。

*ドクター・コペッツはこの日でお別れ。農林会議所の定年退職で、この後スロベニア、南アフリカに4週間旅行とのこと。島根の小池会長と握手し、お互いの今後の健闘を祈りあいました。


ハロルド・オフナー(森林教会事務局長)

 農家・林家はエネルギー家になっていく

◎8,000人の林家がいて、平均で7ヘクタールの山林を所有しています。バイオマスはこの地域ではもともと多くありましたが、余り利用されていませんでした。エネルギー利用を通じて、農家・林家の所得を増やすことが重要です。
◎2001年時点でエネルギー利用の43%は石炭、木の薪が32%になっています。私たちの目標は、2010年には、木材エネルギーを1番にしたいということです。現在山林の51%しか経済的に利用されておらず、2030年には70%の利用になるようにと目標を立てています。8万立米のチップで、700万リットルの石油を代替えする考えです。
◎目標達成のための政策としては、@バイオマス利用のコーディネートを行う、A進んだ林業技術を林家に教える、Bバイオマス・スタンドをつくる、などを考えています。1年半前に15件のバイオマス・プロジェクトが計画されましたが、内11件が実施され、総出力で1,500キロワットの設備ができました。
◎木材の利用は、自然のサイクルの一部であり、環境にやさしく経済的にも安いものです。木材1立米は5キロワット・アワーの熱量があり、チップは石炭の1/2の値段になっています。将来、農家・林家は、エネルギー家になっていくと考えています。



ヤコブ・エドラー(バイオマス・エネルギー供給会社・社長)

 製材所から始まったエネルギー会社

◎私の会社は父と祖父が1995年に設立しました。山林と製材所を持っていましたが、「木くずをどうするのか」ということからエネルギー利用が出発しました。設備投資には、コペッツ博士の計らいで政府等の50%の補助をもらっており、10ヵ所の熱供給施設をつくりました。内3つは発電も同時に行っています。
◎バイオマス、水力、風力、バイオガスの4つの分野に興味を持っており、水力を3つ、風力を2つ、バイオガスで1つのプロジェクトを計画中です。小さい会社なので、1年に1〜2つのプロジェクトしか実現できていませんが、年商は600万ユーロ(約8億4,000万円)になりました。
◎フォーラウ修道院のプロジェクトは、2002年に契約をし、2003年にエネルギーセンターを設置して熱供給を開始。2004年にはそれを拡充して近くの学校にも熱を供給し、2005年には病院、家庭にも供給できるようになりました。2006年には電力供給も始める予定で、段階的に対応してきています。
 ワーク・ショップの後夕食。その後礼拝堂を見学。荘厳な雰囲気にミッション団一同圧倒されました。



2月10日(金)フォーラウ・ウィーン


●伐採・集材マシン等製造会社・TST/MMF   11:40〜12:00
 
 ライセンスを持った町工場の技術屋さん

 フォーラウ修道院の宿泊費は、41.5ユーロ(約5,800円)。夕食・朝食付きでこの値段は手頃。昨日見たピカピカの礼拝堂を中心に、レストランや宿泊施設がそろったこの修道院は、もはや観光名所と言ったほうがふさわしいに違いありません。昨日雪が降ったようで、うっすら積もっています。氷点下5度くらいの寒い朝。実は、オーストリア南部での数日間の視察中ずっと雨も雪もない好天に恵まれており、いよいよ最後の1日となりました。8時に修道院を出発。北部の首都ウィーンへと向かいます。
 延々と山岳地帯の道路を走り続け、標高が高くなります。アルプスの山並みの一部です。峠は1,200mぐらいあるのでしょうか。路面は完全に圧雪・凍結状態となり、深々と雪が降り積もります。視界は悪くなる一方で、前の車が動けなくなってストップしているところにバスが突っ込みそうにもなりました。
 ようやく峠を越えましたが、家々の屋根には凍結した雪が1mぐらい積もり、運転手さんによれば、「家が1軒つぶれた」とのラジオ報道もあったようです。また、この道路は通行止めになったとの情報もありましたが、バスは何とか前に進んでいます。両側には、1.5〜2mの積雪が壁のようになっています。
 出発から3時間30分。30分遅れでテュルニッツと言う小さい村に到着しました。最後の訪問先となる林業伐採・集材マシン等製造会社・TST/MMF社です。
 さっそく説明いただいた社長は私と同年代くらい(私は45才です)。この会社は、1995年にお父さん(会長)が設立したとのことで、現在従業員は7人。ワイヤー架線を上下しながら木材を搬出するキャリッジを開発・製造しています。そして、1台のトラックにタワー・ヤーダとウッディ60(Woody60)と言われるプロセッサー、それにTST社のキャリッジをセットにして年に5〜 7台を生産・販売しているとのこと。会社の前にはできたばかりのニュー・モデルが置かれています。
 この機材ワンセットの価格は36万ユーロ(約5,000万円)。内トラック価格が7.5万ユーロ(約1,000万円)とのことで、ミッション団の益田市・伸共木材協同組合の篠原さんは興味津々です。島根では、作業道の確保が課題となるようですが、林業活性化のため、また、このミッション成功のため、ぜひ1台買って欲しいものです。
 工場内で、キャリッジを開発した会長から、小さな模型を使って説明いただきました。手前で一本のワイヤーを巻き上げたり送り出したりするだけでキャリッジが移動します。さらに、キャリッジから降りる集材ワイヤーも自在に上下に操られるのですから不思議です。
 田舎の親父と言った風情のこの元社長は、とんでもない技術屋さん。オーストリアの片田舎にこのような技術を持った人がいて、先進的な機械を製造し世界に販売しているというのは正直驚きです。



●山岳地の林業伐採現場     12:30〜14:00
 
 雪道は八甲田山状態、軍隊も出動した大雪
 
 12時、社長と会長がバスに乗り込み、山岳地の伐採現場に向かいます。
 こんな小さな村にも、トヨタの代理店があります。ヨーロッパ名・ヤリス(日本名・ヴィッツ)の広告看板があります。TST社は、従業員も少ない田舎町の会社ですが、優れた技術を持つエンジニアがいて、世界に通じる製品を製造・販売している点では、トヨタにも負けないものがあります。
 現場までの道すがら、日本の実情に併せ、TST社の搬出機械が活用できるかとういことを小池会長、篠原さんが質問。「日本の10トントラックの荷台に乗るのか」という点は、「最小4mあればOKであり、5mある10トントラックなら十分」とのこと。重さも、タワー・ヤーダ、プロセッサー、キャリッジとセットにして8トンでした。
 「トラックを日本から持ってきて、こちらで組み込めるのか」という点も「できるし、その方がいい」ということ。
実は、社長は昨日までウクライナにいたそうで、そこでもウクライナのトラックに載せたいというリクエストが出ていたそうです。どういうタイプの機械を積みたいのかという話を具体的にもらえば、対応したいとのことです。
 山を上がり、吹雪模様に。「車の幸運を祈ってくれ」とジョークが飛びます。峠あたりで車を降り、雪が深いため通行止めとなった道路を歩いて降りることになります。スニーカーを履いている私は「おい、おい」という感じでしたが、ここでひるむわけにも行きません。スノーブーツを履いた諸氏の後をトボトボ進みます。
 氷点下10度位の寒さ、吹き付ける粉雪の中を500m。15センチほど積もった真っ白な道を、無言で黙々と歩きます。小学校の頃の集団登校を思い出します。途中で「八甲田山、死の彷徨か」と思ったのは、私一人ではなかったでしょう(大げさ)。

 現場では、TST社の機材を買った林家の兄弟が集材作業中。公道に集材機を置き、集材機の操縦に1人、100m下の伐採現場に1人。吹雪をものともせず、下の人がキャリッジを無線で操作し、1〜2本丸ごと木にワイヤーを掛け、上の人がタワー・ヤーダで引き上げ。プロセッサーで枝払いし長さをそろえて切ります。とてもスピーディーに効率的に集材が進みます。
 木材は4トンまで吊り上げ可能で、最長850m先までワイヤーを引っ張り集材できるとのこと。ワイヤーは行き帰りでその2倍の長さがあります。だいたい1時間に80立米を集材。条件がよければ200立米の集材も可能とのことです。キャリッジのスピードは毎秒最速12m、この日は9mに設定しているそうです。
 吹き付ける雪の中、黙々と作業を進める兄弟にお礼を言い、またトボトボと歩いてバスに帰ります。遅くなった昼食にTST社の会長と社長が同行。コーヒー・紅茶、ケーキの差し入れをいただきました。午後4時前、レストランを出てウィーンに向かいます。


●ヨーロッパ文化の中心ウィーン

 街に響くストリート・パフォーマンス

 内陸の風力発電なども遠望しながら、6時過ぎに宿泊地ホテル・ヨーロッパに到着です。
 今年はモーツァルト生誕250周年。モーツァルト・イヤーのさまざまな催しが行われているようです。
 1756年1月27日ザルツブルグに生まれたモーツァルトは、6歳の時に女帝マリア・テレジアの前で演奏するなど、幼い頃から才能を発揮。ヨーロッパ各地の宮廷で演奏し、人生の1/3を旅の途上で過ごしたと言われます。
 夕食前の2時間を活用して市内を散策。ようやくお土産も買えそうです。JETROウィーンの木場さんに案内いただき、「ザッハ・トルテ」の有名なお店でチョコレートを買い、スーパーでジャムとチョコレートを買います。
 世界遺産のウィーン市街地は、数キロに渡り商店街や古い街並みが続く歩行者天国。高さ137mのシュテファン寺院は荘厳。ミサが行われているところを見学しました。
 様々な人々が行き交うにぎわいの中で、時折ストリート・パフォーマンスが見られます。縦笛で曲を演奏する者、アンデスの民族衣装をまとい楽器演奏をする一族(よちよち歩きの小さなこどもも一緒)、そして、盲目の男女の重厚な歌声が圧巻で、ストリートに響き渡っています。文化の都・ウィーンの厚みはこんなところでもうかがえます。
 この後JETROウィーンの所長を交えて日本料理店で会食。あの天満屋が料理店であることにまずビックリ。和服を着たオーストリア人も妙な感じです。EUにトルコが加盟するかどうか、ロシアの天然ガス供給がどうなるかなど、微妙に揺れ動くヨーロッパの現状をお聞ききました。
 この日のオーストリアは大雪。来る途中私たちの通った村では、軍隊が出動し屋根の雪下ろしをしたとのこと。夜のニュースでそれを見ることになりました。こうした異常な気候も「温暖化」の影響。日本では、「温暖化」で地球が暖かくなる、雪が減るという認識が一般的ですが、元来IPCCは「気候変動」と呼称。「気候変動枠組み条約」は、地球全体の気温上昇に伴って引き起こされる局地的な豪雨や寒波などの気候変動をどう抑制するかが目的になっています。
 見直すべきは、人間の飽くことのない「経済至上主義」の考え方や生き方。昨年のニューオーリンズ大水害や今年の日本の豪雪被害などを経験した私たちは、このままではとんでもないつけを払わされることに、早く気付かなければなりません。



2月11日(土)・12日(日) ウィーン・フランクフルト・関空


●ウィーンからフランクフルト経由で帰路に

 ワールドカップ・グッズ見つからず

 ホテル・ヨーロッパは、立地が良いせいか1泊105ユーロ(約1万5千円)と割高。ここで、追加日程のある小池会長と事務局の遠藤さんと別れ、空港へ向かいます。
 11時にウィーン空港を飛び立ち、1時間30分でフランクフルト国際空港に。30分であわただしくワールドカップ・グッズを探しますが、ゲットとできたのはマスコット人形2体のみ。目当てのストラップ等は見つけられませんでした。
 午後1時30分フランクフルトを出発。ほぼ満席の乗客の8割は日本人。ビールとワインを飲み寝ようとするのですが、時差のせいか、小間切れの睡眠しかとれません。そうこうする内、関西国際空港に到着。日本時間で8時30分です。
 到着ロビーで声を掛け合って、ミッション団は解散。私は、来た経路を逆に戻ることとし、関空から阪急梅田、そしてJR松江駅へとバスで帰ります。
 帰路の中国縦貫道では、木に葛が巻き付き悲惨な有様。昨年島根県を訪れたコペッツ会長は、島根の山林を「まるでジャングル」と呼んだようですが、そう言われても仕方ありません。中国道では、積雪か雪崩か、山の斜面全体に倒れた杉林を見られました。
 松江到着は午後4時15分。久方ぶりの妻が駅まで迎えに来てくれました。


●終わりに
 
 まず、「はじめの一歩」を踏み出そう!

 瑞穂町(現邑南町)の私の父が、家の近くの山に植林をしながら、「おまえが大きくなったらこれで家が建つで〜」などと言っていたのは40年近くも前のことです。
 1970年代、日本が木材の輸入自由化に踏み切って以降、木材価格は低迷。そのため、せっかく植えた山林は、間伐もままならず、荒れ放題になっているといます。
 平成に入ってこの17年間に、島根の木材生産量、売り上げ、利益は半減。森林作業の後継者は育たず、60〜70歳代の熟練高齢者でかろうじて林業は支えられています。
 オーストリアも日本も、気候や地形条件が変わるわけではありません。むしろ、オーストリアの方が条件の悪いことさえありそうです。また、森林がそれほど役に立たなかった時代もあったオーストリアが、この20年間で林業技術や利用方法を飛躍的に向上させ、両国の山林・林業は比較できないほどの落差を生んだことに反省させられます。

 オーストリア・バイオマス協会のコペッツ会長の最後のメッセージに、「理論を議論する段階から実行する段階に来たのではないか」「最初の一歩を踏み出そう」という激励が、島根のミッション団にありました。
 私は、政策をつくる立場にある一員として、島根と日本におけるバイオマス利用を進展させる道を探っていきたいと思います。それは、環境という地球の問題だけではなく、過疎・高齢化で経済が停滞する島根県再生のために必要なことと信じるからです。
 考えられる政策オプションとしては、以下4つを掲げます。今後、県・バイオマス協会内での議論も深めながら、具体化を図っていきたいと考えます。


@県や市町村へのバイオマス・ボイラーの率先導入や福祉施設・ホテル等への導入(もちろん、補助制度も必要)による市場のプル・アップ(引き上げ)
A「熱」利用がバイオマス利用促進のカギであり、エリア・ヒーティング(地域熱供給)システムの理解促進や山間部町村中心地でのモデル事業の展開
Bオーストリアでの「給電料金制度」」を参考に、電力の固定買取り価格制度の導入(現行のRPS法による買取りは、量的にも制度的にも不十分)
C近代的な林業技術の普及や最新機材の導入、木材乾燥技術の向上による品質の向上



 特に、この間、積極的とは言い難かった行政の率先導入は欠かせません。それも、縦割りで足を引っ張り合うのではなく、部局横断の総合的対応が不可欠です。環境政策としてはもちろん、雇用と技術を定着させる経済政策として、バイオマス利活用政策を進める県・市町村のリーダーシップを強く期待するものです。
 参考までに視察の費用ですが、航空運賃13万円を事務局に支払い、その他はその都度の精算。宿泊代と朝食、昼食・夕食代がだいたい1日1万5千円見当で、6泊で約9万円。プラス関空までの往復のバス代が11,750円。合計23万円余りでした。
 最後に、終始同行いただきお世話になったジェトロ・島根の木の本さん、現地での日程調整などをいただいたジェトロ・ウィーンの木場(こば)さん、有意義な視察をつくりあげた真摯な参加者一同にお礼申し上げます。ありがとうございました。

 そして、県議会議員を辞めたばかりの不安定な身でオーストリアに出かけたわがままな私を、温かく送り出してくれた妻とこどもたちに感謝。今回貴重な機会をつくっていただいた県・バイオマス協会の発展と日本の森林再生を祈念しつつ、報告とします。


(2006年2月22日・こむろ寿明)



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