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安く便利な公共交通でまちを元気に!


    ハードとソフトで“世界最強”のドイツの公共交通システムに学ぶ・・・
 
 2002年5月4〜10日、ヨーロッパの先進的な公共交通システムを学ぶため、市民政策グループ「環境イニシアティブ」が募集した有志6人で環境視察に出かけました。訪れたのは、オーストリアとドイツ南西部の6都市。オーストリアのグラーツ、ドイツのザール・ブリュッケン、ハイデルベルグ、マンハイム、カールスルーエ、ヴュルツブルグ。日本でも注目されつつある路面電車(LRT)を中心に、公共交通とまちづくりについて大いに参考とすべき点を持ち帰りました。その概要をお届けします。   
            


はじめに
 1週間の「ヨーロッパ環境視察」から帰国し、松江市の殿町・白潟界隈を歩いて愕然。日中、夕方とも人通りはほとんどありません。10数億円の巨費と3年の歳月をかけ、電線類地中化や歩道整備などが行われた殿町通りの凋落はどうしたことでしょうか。
 オーストリアでもドイツでも、私たちが訪れた中小都市の街の中心部は、いずれも日中から夜遅くまで老若男女が溢れ活気に満ちていました。
 日本よりもずっと早くから、高齢化や産業の成熟化が進んできているヨーロッパの各都市が、なぜこんなにも元気なのか。私たちは、その最大の要因が、都市政策の中に公共交通がしっかりと組み込まれていることにあると考えます。
 人口30万人のマンハイム市にあるライン・ネッカー運輸共同体では、3つの州の枠を超え、近隣の19自治体が交通連合を組み、鉄道、路面電車、バス、さらには過疎タクシーまで一元的に管理・運行していました。
 半径60キロ圏域の公共交通機関すべてが1枚のチケットで乗り放題。なおかつ、家族みんなで乗れる月額定期がわずか8,000円。安く、便利な公共交通の仕組みが整備され、人の移動する条件が整備されていることで、人が湧くように中心市街地に出てきて、ショッピングや交流を楽しみます。
 最新の路面電車(LRT)を使い、「一畑電車を松江しんじ湖温泉駅からJR松江駅へつなぐ」提言を2000年に発表した私たちですが、どちらかと言うとハード整備に目が向きがちだったことを反省させられるとともに、ソフトの交通システムの部分でも大いに学ぶべき点があると再認識させられたところです。
 鉄道、路面電車を乗り継いで約1,000キロ。まさに、「見た!聞いた!驚いた!」ヨーロッパ環境視察。ハード・ソフトで“世界最強”(小池談)と言われる公共交通システムの一端を紹介し、私たちの住む街(地域)がもっと元気で暮らしやすくなるように、そのヒントがつかむことができれば幸いと考えます。


まちの主役・路面電車(LRT)
●世界遺産都市・グラーツ
 5月5日、最初の訪問地グラーツ市は、オーストリアの南東部、東はハンガリー、南はスロベニアと国境を接している小都市です。グラーツ空港に降り立ち、あまりにのどかな農村景観が広がっている様子に「これはどう見ても出雲空港だ」と思ったものです。15世紀フリードリヒ3世の時代に居城が築かれ、ハプスブルグ家の領土となって繁栄。中世の面影をそのまま残す古い市街地は1999年12月、ユネスコの自然と文化の世界遺産に選ばれています(JTB刊・ワールド・ガイドから)。 
 
街のエレベーター・路面電車
 宿泊したホテルの近くに、市中心部を走る道路があり、路面電車の軌道が引かれています。もちろん車の乗り入れは制限されています。
 早速電車に乗り、2駅ほどで電車のターミナルへ。ここでは、3方向から路面電車が乗り入れられ、乗り継ぎのバスも接続されています。
 電車は、高床の見るからに旧式の車両と最新鋭のかっこいい超低床車両が混在。どの車両も、エレベーターのようにするするとターミナルへ入ってきます。ホームとの段差が7〜8センチしかない超低床車両のステップでは、こどももお年寄も苦労せず乗り降りしていました。
 びっくりしたのは、改札がないということ。乗客は、駅や電停に設置された券売機でチケットを買うと、
すぐ電車に乗り込み、車内にある改札機(チケット・キャンセラー)に自分でチケットを差込んで“パッチン”(改札)。バスも同様の仕組みとなっています。
 この「信用乗車方式」では、乗客は、電車の前後と真ん中のドアからどっと乗り、どっと降ります。乗り降りが早くなり、電車のスピードが速くなるという仕掛けです。


歴史景観にもマッチ
 よく日本では、電車の架線がじゃまで景観を損なうという声があります。
中世の歴史を背景にしたグラーツの重厚な街並みの中を、けばけばしい車体広告をした電車が走っているのには閉口させられましたが、更新された超低床の最新車両は、非常に洗練されたかっこいいデザインで、世界遺産都市に新しい風を吹き込んでいる感がしました。電車の架線(電車に電気を送る線)も違和感なくしっとりと街並みに溶け込んでいます。
 グラーツ市の場合、線路の左右の建物にアンカーを打って横線を引き線路上に架線を行う、いわゆる“クモの巣”架線になっていますが、だからと言って景観が損なわれているという感じは受けませんでした。
 日本では、線路沿いに電柱を立て架線を張る「センターポール方式」が進められていますが、オーストリアでもドイツでも、「電柱がいいか、“クモの巣”架線がいいか」と沿線の住民に選択させ、大体の人は「電柱は(邪魔になるから)やめてくれ」と言うようで、この架線が選ばれるとのことでした(小池談)。


狭い道路に入っていく路面電車
 もう一つの驚きは、殿町通りほどの狭い道路に電車のレールが複線で入っていること。しかも、道路の形状に沿って曲がりくねっています。
 線路に沿って1.5メートルの歩道が道路の両側にあり、そこを通った私たちのすぐそばで、前後から来た電車がスピードを落とさずすれ違いました。レールに乗っている以上絶対にぶつかることはないのですが、「バスならとてもこんなふうにはいかない」と感じました。
 夜遅くまで市中心部の人通りが途切れることはなく、公共交通と“人”中心に考えられたまちづくりは参考になりました。
 

郊外に電車を伸ばすザール・ブルッケン
●工業都市・ザール・ブルッケン
 5月6日、グラーツ近郊のミュレク自治体でのバイオ・ディーゼル視察を終え、オーストリアからフランクフルト経由で、ドイツの最初の訪問地ザール・ブルッケン市(人口20万人)に入りました。ドイツ南東部、フランスと国境を接したザール・ブルッケンは、19世紀から炭鉱と製鉄所で近代化を果たした都市。第2次世界大戦後はフランスの管轄下におかれ、1957年に住民投票でドイツに復帰という歴史を持っているとのことです(ダイヤモンド社刊・地球の歩き方)。     


ザール・ブルッケンのLRTに乗る
 翌朝7日、ドイツの旧国鉄・DBの駅前から視察先のVVS社に向かいます。
ザール・ブルッケン駅前は、電車とバスが共同で利用するターミナルになっており、レールの敷かれた道路から10センチほどの高さのステップから、電車もバスにもほとんど段差なく乗り込めるバリアフリー仕様でした。
 驚いたのは、路面電車もバスも、車両にベビーカーも車イスも自転車もOKのステッカーが貼られていること。実は、後に行ったどの都市でもそうなっていたのですが、日本との違いを実感した光景でした。
 ここで、料金の仕組みや、チケットの購入方法を小池先生に教えてもらいました。日本では、初乗りが100円か150円、後は距離制という仕組みとなっていますが、こちらでは、路線系統別に5キロ程度の蜂の巣状のブロックをつくり、その中は一定の料金というブロック料金制になっています。
 VVS社に向かうため電車に乗り込むと、バス3つ分くらいの車両の中は、バスと山手線の電車を組み合わせたようなイスの配置となっています。片側は電車の進行方向の横むきに、片側はバスのような対面の4人がけ。当然、ここも「信用乗車方式」。停留所だけでなく車内にも券売機が設置されています。
 郊外の住宅地に向かって路面電車の路線が延伸されており、4車線道路の中央2車線をつぶしてレールが敷かれ電車が走っていました。
車は、左折時(右側交通のため)に電車軌道を横切らなければなりませんが、大きな交差点以外には丸い形をした縁石でレールがガードされており、車は横断することができません。車には不便なことこの上ないわけですが、電車は、車に邪魔されることなく定時性を持って走れる仕組みになっています。
 住宅が途切れる郊外では、道路敷から離れ、鉄道のような専用線になっていました。


鉄道ローカル線を利用した電車ネットワーク
 目的のVVS社は最近引っ越したそうで、2時間がかりで探し回ったあげくようやくオフィスに到着。広報担当部長のミハイル・ボーム氏に、鉄道ローカル線を利用した電車ネットワークについてお話を伺いました。
 「路面電車は、@速く(Quick)、A環境にやさしく(Environmental)、Bより安価である(Cheaper)という特性があり、自家用車から路面電車への乗換えが進んでいる。自治体は、新しい道路をつくるより路面電車を活用するようになっている」と、ボーム氏は路面電車の活用を訴えました。
 VVS社では、「トラム(路面電車)」と「トレイン(鉄道)」のツバイ・システムを3年前から取り入れており、郊外の新興住宅地への路面軌道の延伸にも積極的に取り組できたとのこと。
 また、学生25ユーロ(2,900円)、一般80ユーロ(9,280円)の低額の月額定期や自家用車からの乗り換えを促す20~25箇所のパーク&ライド駐車場の整備などにも取り組み、今では100km圏域から都市に人が集まるようになり、通勤の30%が電車を利用、自家用車の利用が20〜30%減ったとのことでした。
 こうした電車延伸には州から50%、連邦政府から30%の補助があり、政府の優先順位の高い事業として位置づけられており、鉄道の軌道に乗り入れフランスまで運行している路線新設には、さらにEUからの20%の補助を受け、結局全額公費で建設費を捻出するという荒業も取られていました。
 「道路をつぶしての電車を延伸することに住民理解が得られたのか」との質問には、「1〜2年目はたくさん文句が出るが、2〜3年もすると80〜90%の人は受け入れ、もっと便数を増やしてと言うようになる」とのことでした。
 このザール・ブルッケン市は、松江でも走るようになった天然ガスバスの導入にも先駆的に取り組んできた都市で、現在ではすべてのバスが天然ガス車になっており、現地視察の際にもたびたび見かけることになりました。
 こうした取り組みで公共交通の利用者を増やし、より定時性が確保でき、より環境にやさしい路面電車の活用へと進んできたとの印象も受けました。


20分間のフランス訪問
 VVS社訪問の後、実際にフランスへと延伸された路面電車に乗りました。電圧や駆動の仕組みが違う鉄道のレールに路面電車がスムーズに入っていきます。
 フランスへはたった20分間の滞在でしたが、国境となっている橋を通り過ぎても何のアナウンスも何もなし。EU統合の成果であると同時に、国境を越えて両国民が自由に電車で行き来していることにびっくりしました。
 また、この車内では、珍しく車掌(といっても制服を着ているわけではなく、見た目は普通のおじさん)が乗り込んできて、切符を持たない乗客が2人駅に降ろされたことにもびっくり。
 チケット購入や改札は自分でやるという「信用乗車方式」をとっている以上、見つかったら通常の10倍の料金をとられる仕組みとなっているそうです。


1車線道路に突っ込む路面電車
●観光地ハイデルベルグ
 次の宿泊地ハイデルベルグ市(人口13万9千人)は、古くから学生の街として知られており、ネッカー川に架かる美しい橋や、夕日に映える古城と緑の丘、赤レンガのしっとりとした街並みが多くの観光客を引きつけています。その昔、ゲーテやヘルダーリン、ショパンなど多くの詩人や芸術家が心の安らぎを求めてこの街を訪れ、後世に残る数々の芸術とロマンを生み出したと伝えられています(ダイヤモンド社刊・地球の歩き方)
 
究極の現場主義・柔軟発想、できるようにやっていく
 夕方までの時間を使い、ハイデルベルグの電車ネットワークを視察しました。
ホテルからDBの駅前まで行き、郊外に延伸された電車路線に乗り込みます。この駅前も電車とバスの共同駅。電車は、低床車と高床車が半々ぐらいで、自動券売機でチケットを買って電車に乗り込みます。
 最初、市街地の道路幅の広いところでは、電車は専用レールを走り、道路との交差点では信号に従って運行します。時速は30〜50キロぐらいで、道路状況に合わせ、急速に速度をアップダウンさせます。ところどころ、緑色の芝生が線路に植えられており、景観への配慮と騒音吸収の効果が期待されているようでした。
 郊外に出るにしたがって道路も狭くなり、2車線道路の端っこを走ったかと思ったら、やがて、1車線しかない道路に突入して行ったのにはビックリ。前から後ろから車が迫ってきますが、もちろん電車優先(車ももちろん電車には勝てません!)となっており、電車を避けて停車したり脇に寄ったりします。
 車は道路の右側を走っていますが、その電車と右側の建物の間は、狭いところで1メートルぐらいしかなく、申し訳程度の歩道を自転車やベビーカーを押した歩行者が歩いています。
この道路での電車の時速は15キロぐらいでしょうか。歩行者や車に注意しながら走り、時々ギュッとブレーキがかかります。
 数百メートルおきにある電停では、5人〜10人と乗客が乗り降りし、市民の足として定着している様子が伺われます。住宅地が密集した郊外で終点。女性のドライバーでしたが、後ろ側の運転席に乗り換えて逆方向へと乗務です。
 この路線は、郊外の住宅地へと結ぶ路線として最近整備されたもので、道路の状況に合わせ、柔軟にレールを敷き電車を走らせているのには感心させられました。日本で、同じことをしようとしても、道路幅が足りないとか、歩道を整備しないとできないとか、いろいろ条件がついて結局「できない」となるわけですが、ドイツの現場主義というか、柔軟発想というか、できるようにやっていくというやり方は勉強になるのではないでしょうか。
 実は、ハイデルベルグは4年前にも訪れたことのあった街。しかし、路面電車のことはついぞ記憶にありません。チャーターバスの視察だったこともありますが、目の前にあっても、関心がなければ見えない好例(悪例?)だったように思います。


ソフトで世界一“ライン・ネッカー運輸共同体”
●南ドイツの拠点・マンハイム
 5月8日、ハイデルベルグから電車に乗り、視察先のライン・ネッカー運輸共同体(VRN)があるマンハイム市(人口32万人)に向かいます。マンハイム市は、円形の環状道路の中に碁盤の目のように道路が交錯し、17世紀から18世紀にかけて計画的につくられた都市。ハイデルベルグ城が17世紀末にフランス軍に破壊された後、南ドイツを支配していた選帝侯の居城として18世紀に建てられた宮殿が有名です(ダイヤモンド社刊・地球の歩き方)
  

安く便利な公共交通の仕組みをつくれば、街に人が出てくる
 午後のVRNへの訪問の前に、市の中心部を散策し、ハンバーガーで腹ごしらえとなりました。
 どこの都市もそうですが、中心部は入る車の流入を抑制し電車しか入れない構造になっています。その周辺には歩行者天国となった道路があり、食料品を売る店の前々にイスやパラソルが用意されて、恋人同士や老夫婦、学生などがお茶を飲んだり、サンドイッチなどの軽食をつまみながら談笑しています。
 最もにぎわうパラーデ広場では、東西南北4方向から、1分刻みに路面電車が入ってきます。しかも、平日の日中というのにどの車両もだいたい席が埋まっており、この中心駅でどっと降り、どっと乗ります。老若男女でにぎわうこの様子を見て、なるほど、安くて便利な公共交通の仕組みをつくれば、人は街に出てくるのだと実感しました。
 特に印象的だったのはお年寄りや若い人。日本では、車の免許がないお年寄りや若者は街に出にくいといわれますが、こちらでは、老夫婦であったり、友達・恋人同士であったり、とにかくたくさんのお年寄りや若者が街を闊歩しています。面白いのは、とにかく街へ出ると、誰か知っている人に会うということで、お年寄りも若者も声を掛け合っている様子です。街に出て、いろいろなことを語り合って元気で過ごす。ついでにいろいろなものを買って商店街が儲かるという、高齢者も若者も商売をする人も元気ということが、とてもうらやましく思えました。


3つの州、80キロ圏域の19の自治体がワーク・トゥギャザ
 午後、視察の目的地ライン・ネッカー運輸共同体(VRN)へ。ここでは、広報担当の部長であるウォルフォン・ワグナー氏が私たちを迎えてくれました。
 VRNは、3つの州80キロ圏域の19の自治体が一緒になってつくっている広域の行政体で、鉄道や、路面電車、バスなど公共交通を一元的に管理・運営しています。
 ワーク・トゥギャザーと言われるこうした仕組みは、ドイツ国内各地はもとよりスイスやオーストリア、スカンジナビア諸国など、近隣の国々でどんどん進められているとのことでした。
 実際の路線の運行は、34の民間や各市の交通局が行っていますが、過疎地のタクシーも含めて、公共交通の路線や行政施策が、市民の生活行動圏である広域で一体として取り組まれていることに非常な驚きを感じるとともに、よく考えると合理的な仕組みであると感心させられました。
 通勤や通学、買い物など、市民の生活行動圏である80キロのどの公共交通を利用しても1枚のチケットでいいという仕組みや、高齢者は月額10ユーロ(約1,100円)、学生は月額23ユーロ(約2,700円)の低廉な定期が発売されているなど、安く使いやすい公共交通に知恵を絞っています。
 こうした仕組みを取り入れることで、VRNは、1990年から2002年までに、乗客が113%増、運賃収入は83%増と大成功を収めていました。


行政の役割と決断
 もちろん、こうした施策を実行するには、各自治体の行政からの後押しもあるわけで、元々あった各自治体の補助制度を統合し、トータルで補助の仕組みが組み立て直されています。
 VRNでは、大まかに言って、約半額を事業収入で、その他半額を行政からの補助でまかなっているとのことでした。
 印象深かったことでは、最近のヨーロッパの大きな流れとして、VRNのような公共の事業体が路線を運行するに際しては、それぞれの路線ごとに入札を行い、民間も市の交通局も対等に競争する仕組みがめざされていることです。
 もちろん、安かろう、悪かろうではいけないわけですから、例えば低床の車両で運行することとか、安全基準をクリアするとかの条件をつけたうえで、対等に競争させるというコンセプトが示されていました。
 こうした仕組みが実際全面的に実施されるのは少し先とのことですが、EUへの統合により、共通のルールによる市場の開放という考えが、公共交通という分野にも波及していることに、考えさせられるものがありました。
VRNの管内であるこの3州が歴史的な結びつきが強かったという歴史的な背景があるにせよ、当初強い反対もあった広域連合が、政治の決定(political decision)によって実現し、大変な成功を収めていることは、日本の、特に“規制改革”で公共交通政策に責任を負うことになった自治体が、もっとも重視しなければならない点ではないかと感じたところです。


ハードで先駆的な“カールスルーエ・モデル”
●扇形都市・カールスルーエ
 ハイデルベルグに連泊し、翌9日は、鉄道と路面電車の相互乗り入れが世界で始めて始まったカールスルーエ(人口26万8千人)市に。この日は、国民の休日ということで、市内の散策と温泉地バーデン・バーデンへ公共交通を利用した視察を行いました。マンハイムの南、フランスとの国境近く、黒い森の北に位置するカールスルーエは、最高裁判所や原子力研究所が置かれ、古い歴史を誇る工科大学では多くの学生が学んでいます。城を中心に扇形に開かれた街は、駅からどの道を通っても城にたどりつく形をしています(ダイヤモンド社刊・地球の歩き方)
                        
鉄道と路面電車の相互乗り入れが始まったカールスルーエ
 翌10日、鉄道と路面電車の相互乗り入れの仕組みを世界に売り込んでいるTTK社を訪問し、広報担当のヨハン・フォン・レパレンさんに、「カールスルーエ・モデル」と言われる鉄道と路面電車の相互乗り入れの仕組みや現実の活用の様子などについて、約2時間熱心に説明いただきました。
 このカールスルーエ・モデルは、旧国鉄であるDBが市の中心部から郊外に移転したことで、郊外から市中心部への乗り入れを確保する必要に迫られ、路面軌道による接続が検討されたとのこと。
 最初は、電圧や電気系統の違いが課題となったそうですが、技術的に克服することで、1992年鉄道と路面電車の相互乗り入れが始まったとのことです。
 現在では、市内を走る路面電車が郊外の鉄道軌道にもどんどん乗り入れ、約80km先まで電車が走るようになり、郊外の住宅開発が進んでいます。
 視察の後、郊外の鉄道へと乗り入れる路面電車に乗り、50km先の田舎町の駅でUターン。その便利さを体験しました。
 ヨハンさんが、強調する「カールスルーエ・モデル」は、ハード面の取り組みがカギとなっていますが、底流にあるのは、いかに公共交通を便利にして利用しやすくするかというシステム−ソフト面での強い意志。「トラム(路面電車)」と「トレイン(鉄道)」をつなぐネットワークをどんどんのばし、住宅開発も誘導していく発想は「なるほど」と思わせます。
 「トラム・トレイン」をつなぐネットワーク・システムを世界に売り込んでいくために、このTTK社というコンサルタント会社をつくっていることにも驚かされました。


9%勾配を駆け上がる路面電車
●世界遺産都市・ヴュルツブルグ
 最後の宿泊地ヴュルツブルグ(人口13万人)市は、ロマンチック街道の北の基点。紀元前1000年頃に、ケルト人がマイン川沿いに城砦を築いたという歴史の古い都市です。7世紀に聖キリアンがこの地で殉教。8世紀に司教座が置かれ、発展した街と言われます。長崎の出島で活躍したシーボルトは、この街に生まれ医学を学んだ後、鎖国の日本に赴任したとのこと。ドイツ・バロック建築のもっとも美しい城館で、世界遺産に登録されているレジデンツ、マニエンベルグ要塞、大聖堂などがあります(ダイヤモンド社刊・地球の歩き方)
 

郊外の住宅地に伸びる路面電車
 ここヴュルツブルグは、世界一の急勾配といわれる9%勾配を上る路面電車のあるところ。市中心部の駅から2系統の路面電車の路線が延びており、世界遺産のレジデンツ、マニエンベルグ要塞を眺める河岸のホテルのそばにある電停から出発し、河を渡り右手に世界遺産を見ながら、電車は勾配のある線路を上がっていきます。
 道路と併走している線路は徐々に勾配がきつくなり、大きく右・左に緩やかに蛇行しながら坂道をかけ上っていきます。道路に設けられた塀の上段がピラミッドの段々のようになっていることで、勾配のきつさがわかります。
 坂の途中にある駅を過ぎ、頂上付近で下車。ここは、公営の住宅地なのか、アパート群が立ち並び、乳母車の若いお母さんなどが乗降しています。
 

問われる自治体の姿勢
 視察したどの都市でも、始発が5時、終電が1〜3時と、ほぼ24時間連続の運転がされ、5〜6分ヘッド・1時間10〜12本もの電車が走っていることには驚かされます。公共交通の確保は、都市の最優先課題であり、都市政策なのです。
 何より強調したいのは、こうした取り組みが、カールスルーエでもマンハイムでも、ここ10年でどんどん進んでいると言うことです。
 島根の一畑電鉄の経営改善の取り組みが始まったのが1993年度。以後2期9年間、35億円を越える設備近代化や赤字補填が行われましたが、乗客数は減少の一途。現在、路線廃止も含めた経営改善策が模索されています。
 「乗って残そう」というキャンペーンや電車だけでの経営合理化に限定した取り組みには限界があることは、この間の経過で明らかであり、広域の公共交通全体をどうするという行政の積極的な位置づけが問われています。
 規制改革、地方分権の大きな動きのなかで、地方自治体は、否応なく公共交通への責任を担うこととなりました。それを重たい荷物と捉えるのか、いや、これを契機に、まちづくりも含めた総合行政ができるようになったチャンスと捉えるのか。その姿勢の違いが、これからの私たちの街の元気を左右することだけは間違いありません。


 ●視察参加者
 小池浩一郎(島根大学助教授)
 須山 真司(島根県交通運輸協議会副議長)
 田中 幸三(島根県高等学校教職員組合書記次長)
 草村 剛広(島根県職員労働組合県庁支部書記長)
 こむろ寿明(島根県議会議員)
 山根智恵子(こむろ事務所)



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